Suchmos横浜スタジアム公演 4年間の進化を凝縮した「ベスト・オブ・ベスト」

2019年9月8日、横浜スタジアム公演を行なったSuchmosのYONCE(Photo by Shun Komiyama)



しかし、本当の見せ場はここからだった。YONCEがアコースティックギターを抱えると、始まったのは「In The Zoo」。グッとテンポを落としてリフが流れ始めると、それを合図にするように、今までパラついていた雨が次第に強さを増していく。「どしゃ降りのClouds」と歌われる頃には雨が間断なく降り注ぎ、歌詞の通りの光景に。Suchmosは自然現象も演出に巻き込む魔法を会得したのか。

前曲の余韻の中、ほぼ同じテンポでヘヴィなリフを弾き始めたのは、ステージ上でマルチプレイヤーとして存在感を発揮しているKCEE。ここで披露された新曲は『THE ANYMAL』と地続きのサイケデリックな雰囲気をまとったワルツで、セットリストには「藍情」というタイトルが記載されていた。同作の内省的な詞世界からさらに一歩奥へと進み、イメージの断片や自己嫌悪とも取れる言葉を、海辺の風景に溶け込ませながら展開していく。シュールで映像的な歌詞と、メンバーのコーラスワーク、そして情感豊かなギター・ソロが新鮮だ。賛否両論分かれた野心作『THE ANYMAL』の後に、それすら上回る壮大なスケールの新曲を用意してきたことに驚かされる。「STAY TUNE」の焼き直しや生ぬるい温度調整なんて、彼らのヴィジョンにはまるでないのだ。


Photo by Shun Komiyama


Photo by Shun Komiyama

サイケ/プログレッシヴ・ロック的な要素を作品に持ち込みながら、しかし古典にひれ伏するようなやり方をSuchmosはしていない。「OVERSTAND」のアコギの響きにピンク・フロイドの『狂気』を、メインのギターリフにはキング・クリムゾンの「スターレス」をはっきりと感じるけど、それらのパーツは巧みに楽曲に組み込まれ、総体としてはストレートなサイケ/プログレと手触りが異質な、もっとボトムが太いロック・チューンを形成している。飛躍して考えると、彼らが影響を公言してきたJディラのサンプリング作法を、ロック古典を用いて応用しているようにも見えるのだ。同じことを、新曲「藍情」からも感じた。

この日KCEEがピンク・フロイドのシャツを着ていたのを覚えている人も多いはず。彼らのフロイド観はかなり独特で、シド・バレット在籍時の酩酊感とエッジも、デヴィッド・ギルモア加入後のブルージーさも、1曲の中で当たり前に共存させてしまえるから面白い。昔のプログレ純粋主義者たちにはそれらをミックスするという発想がなかった。


Photo by Shohei Maekawa


Photo by Shun Komiyama


Photo by Shun Komiyama


Photo by Shun Komiyama

9曲演奏したところで、ドラマーのOKによるメンバー紹介を経て、やや長めのMCタイムに。OKが前日のリハ後に居酒屋でファンと交流した件を話し、「俺らもここに立っているからといって、特別とかそういうわけじゃなくて、この3万人の中の一部。共に引き寄せあった仲間っていう風にみんなが見てくれたら本当にうれしいなと思ってます」と、しみじみ語る。その言葉は建前じゃなくて、そうした基本姿勢、親しみやすさが熱心な固定ファンを生んできた理由でもあるだろう。ロックンロールを継承しながらも、ロックスター的なふるまいとは距離を置く街育ちの庶民派バンド。その“味”を愛しているファンは、些細なことで彼らから離れたりしないのだ。

続いてOKから振られたHSUが「お待たせいたしました、お待たせし過ぎたのかもしれません」と『全裸監督』のキャッチフレーズで一部を笑わせてから、「本当に不思議な、おかしな人生をこの6人で歩んでいます」「ガキの頃からずっといた連中とこんな所に立っているなんて、本当に信じられないよ」とメンバーに語りかける。それを受けて答えたOKの「腹の中にいるときから俺たち喫煙所仲間じゃん」という言葉も秀逸だった。

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