なぜアーティストは壊れやすいのか? 精神科医・本田秀夫と手島将彦が音楽業界を語る

─アーティストは自分で身を守らないといけないという状況がリアルなところなのかなと思っていて。大勢の前に立ってライブをしたり、楽曲を作ったり、それで生活しなければならないとしたら、負荷がかかって当然というか。

手島:場合によってはアーティスト自身も、そういうものだからと考えて背負ってしまっているのかもしれないですよね。特に日本の場合、体育会系の部活にちょっと似ているのかもしれないし。

本田:そういうこともあって、タイトルを「壊れやすい」にしたんですか?

手島:これは、編集担当と話し合っている中で「言うなればアーティストは壊れやすいんですけど、壊されやすいかもしれないんです」みたいに僕が言った言葉なんです。正直、タイトルだけでカチンとくる人もいるんじゃないかと思っているんですけど、そのほうが、多くの人に届くかなと思って。

─本田先生は「個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められる」と本書にコメントを寄せられています。たしかにアートとビジネスを両立させようとしたことで、歪みたいなものが生じる可能性はありますよね。

本田:音楽の世界では、始めはマイノリティだったものが大ヒットして、一気に大マジョリティになるようなことが起こるわけですよ。そういう意味でマイノリティに対して社会がどんなスタンスでいるのか、オリジナリティが尊重されるかどうか、そういう社会的土壌が密接に関係すると思うんです。つまり、社会の構図が芸術系の人たちを生かすも殺すも左右しかねない。例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチの時代なんかは、数々の芸術作品や発明品を作り出してきた裏に、彼らを経済的に保障するパトロンたちがいたわけです。そういう時代と運に恵まれた人たちが芸術を作れた時代と、今みたいに資本主義社会の中で芸術を作り、それを利用してお金を儲けることまで考えていかなければいけない社会ということで違う。だから、社会のあり方みたいなことと、芸術というのは密接に関係しますよね。

─映画『ボヘミアン・ラプソディ』で描かれたクイーンの状況はまさにそうでしたよね。マイノリティだった彼らが社会的な人気を得た結果、環境が変わって、やりづらくなっていく。そういう矛盾や苦悩というのは、現代のアーティストには共通してあるのかもしれませんね。

本田:基本的に大衆って同じだと飽きるからときどき新しいものがほしくなるんですね。でも、新しいものというのは、大衆の中からは生まれない。新しいものを生み出したアーティストは、一気にマイノリティから大マジョリティの先頭を走る人に変わるわけですよ。それによって、そのアーティストの人生の中で大きな転換になって、そのこと自体で非常に矛盾に悩む人も出てくるんです。そうなっちゃったことでオリジナルなことがやりづらくなってしまう人とか、マジョリティの先頭を走り続けることがつらくなっちゃう人とかも、いっぱいいると思う。そういう意味で、全てのアーティストがメンタルにやられるリスクを常に背負っていると言える世界なんです。

手島:本の中でもちょっと触れましたけど、音楽産業にかかわらず、いろいろなことが変化してきている中で、間違いなく確実なことは、それでメンタルに影響を受ける人が出てくるということ。産業構造が変われば、影響を受けない人なんていない。それが分かっているのであれば、何か予防すべきだとは思うんです。これまで売れていたCDが売れなくなったとか、産業構造が変わることで間違いなく影響を受けるアーティストたちは出てくるのは当たり前なんです。

Rolling Stone Japan 編集部

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