なぜアーティストは壊れやすいのか? 精神科医・本田秀夫と手島将彦が音楽業界を語る

─本書を書かれるにあたって、手島さん自身、音楽業界に対して何かしらの問題意識のようなものがあったんでしょうか?

手島:本田先生との共著『なぜアーティストは生きづらいのか?』を出したあと、精神科に行ったことがある知り合いのミュージシャンから、「ただでさえ参っているのに、業界のことを何も知らない先生に仕事の流れを1から説明しないといけないのがしんどかった」って言われたんですよ。特にアートの世界って説明しにくい部分もあるから、どうしても「レコーディングって何をするんですか?」みたいな話になるわけですよ。その点、僕は音楽の経験があるから話しやすいって。それで、アーティストの方や学生に対応する中で実際役に立つだろうなと思ったので、産業カウンセラーの資格を取得したんです。

本田:今手島さんがおっしゃったように、ある程度その業界のことを知っていたら、そこはツーカーで分かるわけですよね。だけど、精神科医はそこまでいろいろな仕事のことを熟知しているわけではないし、業界特有のストレスのデータがないと、そこを知るためにどうしても説明を求めてしまいますからね。

手島:そこは難しいところで、全ての職業を熟知することは不可能ですからね。最近、海外でミュージシャン向けのメンタルヘルスが注目されているんです。ミュージシャン専用の電話相談窓口が開通したり、所属アーティストにレーベルがセラピー代を払うみたいな動きが出始めたりしているんですね。(※参考サイト link

本田:音楽業界でも、メンタル部分を労災扱いし始めているということですよね。

手島:はい。ミュージシャンはお金が潤沢になかったりするので、仮にセラピーなどに関心があったとしても、数千円払うってなると、うーんってなって踏みとどまちゃうこともあると思うので、すごくいい試みだと思うんですよね。

─音楽業界の中でも、アーティストとマネージャー、レーベルなど、役割や立場の違う人たちがたくさんいるので、ある程度、客観的な立場で話せる人がいたほうが、アーティストも本音を打ち明けやすいでしょうしね。

手島:どこかのレコード会社や事務所に所属したとき、利害関係のない立場で相談に乗ってあげられるポジションの人じゃないと、アーティスト側からしても話せないというケースもありますよね。もちろんマネージャーさんとの信頼関係ができている方もいっぱいいるとは思うんですけど、利害関係が生じてしまったり、上下関係が生まれてしまうと、それこそカウンセリングができない関係になってしまうわけなので。

本田:一般的には、大きな会社には産業医というのがいるんですね。会社の上司に言いづらいような相談をプライバシーを守る立場で相談に乗るというのが産業医の役割なんです。一般の会社だとそういう部分が保障されているけど、音楽業界はどうなんだろうというのはありますね。

手島:大きいレコード会社には産業医がいるんですけど、それは主に社員向けですし。もちろん支えるスタッフ向けのケアも同じくらい重要ですから、それは良いことなんですけれど、アーティストに対しては足りていないと思います。また、2015年から、国が「ストレスチェック制度」というのを企業に義務づけるようになったんですけど、それは労働者が50人以上の事業場が対象なんですよね。そうすると、音楽業界のプロダクションなんかは、それにあてはまらない規模のところの方が圧倒的に多いですから、余計にそうしたことへの理解が進んでいないというのが現状かもしれません。

Rolling Stone Japan 編集部

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