あの世からのライブ、新たな業態ホログラムツアーに湧く音楽業界

「コンサートだけど、コンサート以上なんですよ」と、ホログラムコンサートについて語るファン Bryan Weber*

亡くなったアーティストをテクノロジーの力で蘇らせる「ホログラム」ライブ。米国でホログラムライブがまずまずの観客動員を記録する中、本当に音楽業界を変えてくれるのか?

ニューヨーク州ハンティントンで最近行われたトリビュートコンサート『The Bizarre World of Frank Zappa』は、公演前にこの日のギタリストについて蘊蓄をたれるダイハードなファンから公演前のドゥワップに至るまで、ロックの偶像破壊主義者も認める百点満点のコンサートだった。ただし、決定的な問題がひとつ。フランク・ザッパは1993年にこの世を去っている。ヒゲがトレードマークのミュージシャンは、往年のバンドメンバーと並んでステージの真ん中に立っていたが、実はそれは本人ではなくホログラムだったのだ。

公正を期すために言っておくと、ギターを弾き、シャツをたくし上げ、ひげをいじるホログラム像はまさにあの世からフランクがよみがえったかのようだった。声まで本人そのもの。1974年の未公開ライブ音源が使われていたのだから当然だ。それでも見ごたえ十分で、満員御礼の会場からはスタンディングオベーションが送られた。「初めはちょっと悲しくなりました」とファンの1人、アネリー・インディラは公演後にこう言った。「彼がこの世にいないと思うと、一瞬胸がぎゅっと絞めつけられました。でもすごく気に入りました。すごく変わってますよね。なかなかよくできていたと思います」

この日のコンサートはソールドアウト。チケットは1枚125ドルもするというのに、残るツアーの日程も完売だ。同様に、昨年行われたロイ・オービソンのホログラムツアーも興行的に大成功を収め、1公演あたりで平均1800人の観客動員を記録した。その後需要が増え、追加公演の日程が組まれるほど――この秋には、バディ・ホリーのホログラムとのジョイントツアーが予定されている――さらに年内には、ロニー・ジェイムズ・ディオ、ホイットニー・ヒューストン、エイミー・ワインハウスのホログラムツアーも控えている。ホログラムツアーという新たな波は、2012年のコーチェラフェスティバルで登場したトゥパックのような1度限りのイベントではなく、持続可能なイベントとして見る傾向が強まっている。

「いままで行ったコンサートの先々で、ファンの方々に感想を聞いてみたんです」と言うのは、故ロニー・ジェイムズ・ディオのウェンディ夫人。Eyellusion社ともゆかりのある人物だ。「否定的な意見はひとつもありませんでした。みんな私に、彼をよみがえらせてくれてありがとうって感謝するんです」

だが、この手のコンサートを世に送り出すのはたやすいことではなかった。「一番大変だったのは、どんなコンサートなのか人々に理解してもらうことです」 と、ジェフ・ペズティス氏は言う。ザッパやディオのツアーの制作会社Eyellusion社のCEO兼共同創設者だ。「言葉で説明するのは非常に難しいですね。YouTubeや写真とは比べられませんから。みんな最初は映像を見せられるのだろうと思うんです。でも実は全く違う。ライブコンサートなんですよ」



ザッパやディオのコンサートに関して言えば、Eyellusion社は特設ステージを製作した。真ん中にホログラムを浮かび上がらせ、両サイドでミュージシャンが演奏する。その周りをLEDスクリーンがぐるりと取り囲み、エキサイティングなアニメーションが流れる。オービソンやホリー、ワインハウスのショウを手がけるBase Hologram社は、ミュージシャンの前に半透明のスクリーンを設置して、そこにホログラムを投影している。後者は最新エフェクトを駆使しているが、Eyellusion社の場合は19世紀のマジシャンが使った“ペッパーズ・ゴースト”という、アクリル樹脂の上に動画を投影する手法をアレンジしている。

「我々のテクノロジーのおかげで、膨大な自由が手に入りました」というのは、Base Hologram社の配信およびツアー制作部門のCEOを務めるロバート・リンジ氏。「ホログラムを袖からステージに向かって歩かせたり、バンドやオーケストラ、音楽監督や観客と交流させるとか、何でも可能になったんです」

リンジ氏いわく、オービソンのホログラムのロンドン公演では客席の通路で踊り出した人がいたという。ディオのショウでは子供連れの家族客を見かけたと、ペズティ氏も言う。「夕べ18回目の公演を終えたところですが、おそらく観客の15%は15歳以下の子供でしょう。私もびっくりしましたね」

Translated by Akiko Kato

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