ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす

動画を観るとコリーは8分音符で構成されたフレーズをすべてダウンストロークで演奏しています。8分をダウンとアップに振り分けて4拍で4往復するように演奏しても良いところなのですが、やはり倍の8往復で刻むのがミソです。ストロークのスピードが上がることで弦にピックが当たるスピードも上がるし、アップとダウンという2種のピッキングによる音色の変化もないので、タイトなニュアンスになるといえます。複数の弦をコード弾きする際、ピックを当てるのは点ではなく面となります。そして、この面をピックが通過するスピードが速ければ速いほど音にまとまりが生まれ、アタックのタイミングが明瞭になるわけです。食感に例えるとクリスピーと言ったところでしょうか。ナイル・ロジャースと比較するとわかりやすいかもしれません。彼はコリーほどスピード重視ではなく、歯切れ良さを残しつつも若干もっちりした感じのニュアンスでカッティングします。

さて、コリーに続いて登場するのがダブルストップ奏法で16分を刻むテオ・カッツマンです。コリーのやや際どい8分刻みのフレーズに16分刻みのフレーズを重ねるというのは、同じパターンを細分化したものとはいえ、なかなかに難しそうです。本番でトチって悲しそうな顔をするテオをライブ動画で観て胸を痛めたことがあります。

ど頭からコリーのタイム感に注目して聴いていくと、テオが入るタイミングでリズムのグリッドから外れる微妙な間があるように感じられます。これはおそらくテオが入るのを待っているからでしょう。いくら日頃の鍛錬によってより正確なタイム感を会得しているという自負があろうとも、誰かと一緒に演奏する限り、微妙なタイム感の違いを引き受けてアンサンブルを構築しなくてはなりません。「リズムはナマモノ」というのが私の持論です。例えば、ひとえにトマトと言えども個体差があるし、収穫の時期で味が違うし、時間の経過によって状態も変化するものです。リズムも同様で、杓子定規の対応では良いアンサンブルは築くことは困難です。ファンクは決め打ちのフレーズをひたすら繰り返しているだけという先入観があるかもしれませんが、実際はプレーヤー間で非常にスリリングなやり取りが行われているのです。

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