ライヴ・エイド出演の立役者が語る「クイーン」バンドの一員として共に歩んだ35年間

ーそのメールは誰に送ったんですか?

ロジャーだよ。僕が番組を観たのが何週目だったのかわからないけど、アダムと名前も思い出せないような誰か(Kris Allen)が決勝戦に進出した頃、クイーンに番組で2人と共演してほしいっていうオファーが来たんだ。2人はその場で承諾した。僕がロジャーにメールを送って以来、2人とも彼に注目してたからね。会ってみるとアダムはものすごくチャーミングだったし、何より問答無用の歌唱力の持ち主だった。まさに運命の出会いだね。



ー彼の若さなど、不安に感じる要素はありませんでしたか?

なかったね。大事なのは歌えるかどうかってことだし、テレビに映った彼はエルヴィスみたいだった。「彼しかいない。クイーンの曲を歌いこなすゲイのエルヴィスだぜ?リスク?そんなものはない」って感じだった。

ーアダムとの最初のリハーサルはどうでしたか?

スムーズそのものだったね。初めて人前で一緒にプレイしたのは、ベルファストで行われたMTV Europe Awardsだった。短い持ち時間の中でできるだけ多くの曲を披露できるよう、当日も僕らはメドレーを組んでた。その後はラスベガスでiHeartRadioのフェスティバルでもプレイしたよ。その2つのパフォーマンスで、彼は歌い方とステージでの存在感を確立したんだ。

クイーンの2人はスピーディーな作業を好むんだ。ダラダラしたり、無意味なことに時間を割くのを嫌うんだよ。何かを試してみて、ダメだと分かったら即破棄する。幸いなことに、アダムは準備万端だった。僕らが何かを提案するたびに、彼は見事に対処してみせた。要するに、彼がバンドに馴染むまでにそう時間はかからなかったってことだよ。彼は舵をとるのも得意だ。その上で僕が役立ちそうだと思ったらしく、何かと目で合図を送ってきてた。僕が頷いたり眉を上げると、そこから曲が展開していくんだ。ステージに立つ時、僕らはお互いをすごく信頼してる。今じゃ阿吽の呼吸ってやつで、そういう合図もなしに意思の疎通ができるようになったよ。

ーウクライナでのショーはどうでしたか?彼と組んで以来初の本格的なコンサートでしたが、ヒヤっとするような瞬間もあったのでは?

サウンドチェックがまともにできなかったことにはイラついたね。エルトン・ジョンは後に予定があるとかで、僕らより先に出演したんだ。彼の後に続くのは容易じゃない。オーディエンスの数も半端じゃなかったしね。具体的な数は知らないけど、街の広場から人が溢れ出して、両側の道もスクリーンを観てる客で埋め尽くされてた。緊張するなっていう方が無理な状況だったけど、彼は見事に乗り切ってみせた。みんなパフォーマンスの出来に満足してたよ。



ー彼と組んで以来初のアメリカツアーは集客に苦戦しました。バンドは1982年以来本格的なアメリカツアーを開催していなかったため、プロモーターも手探り状態だったのでしょうか。

僕らのモチベーションは申し分なかったけど、批判的に受け止めたオーディエンスが多かったんだ。「あれはフレディじゃない。一体どういうつもりなんだ?」とか「フレディのいないクイーンなんて観る価値がない」っていう意見が多かった。今のラインナップで行なった初のアメリカツアーでは、バンドの昔からのファンの大半はそういう反応を示してた。でもアダムのステージでの存在感と、彼が曲に新たな命を吹き込むさまを目の当たりにして、そういうファンも態度を改めるようになった。今のツアーの成功ぶりは、そのことを物語ってるね。

ーオーディエンスの中には、クイーンのことをほとんど知らないアダムのファンもいると思います。

当初は腕を組んでステージを睨んでるようなクイーンの古いファンは「何だこりゃ?」って感じだっただろうし、アダムのファンたちは「彼の後ろにいるおっさんバンドは何?」って訝しんでたと思う。その一方で、両親がクイーンのファンでいつも曲を聴いてたっていう若いファンもいたよ。でも状況は大きく変わった。僕らのライブに来る客の9割以上は、フレディー・マーキュリーがいた頃のクイーンのライブを観たことがない。でも彼らはフレディの映像や、テレビのコマーシャルやスポーツ番組やら何やらで、無意識のうちに彼らの曲に慣れ親しんでる。たとえそれがクイーンの曲だと知らなかったとしてもね。

「ファット・ボトムド・ガールズ」を聴いて、感動のあまり涙を流してるティーンエイジャーを目にすることもあるよ。かと思えば、「俺は1975年にやつらのライブを観た」なんて自慢してる年配の客もいる。今じゃ彼らみんな、声をひとつにして大合唱を聞かせてくれるんだ。ジャンルや世代のギャップを飛び越えるっていうのは、昔からクイーンが実践してきたことだからね。流行りに便乗しなかった彼らの音楽は、決して風化しないんだ。


Translated by Masaaki Yoshida

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