満員御礼のクラブイベント「レッスンGK」は、ほんとに公開レッスンの場所だった

2018年8月9日のレッスンGK。この日はベースのデイブがホセ・ジェイムズの仕事でお休み。代わりにロバート・グラスパー・エクスペリメントのバーニス・トラビスが入っている。ちなみにGKはゲンテイカイジョの略だそうです。(Photo by ROOTSY / Gen Karaki)

脱サラ中年ミュージシャンのニューヨーク通信、今回は彼が飛び込んだコミュニティの話。一風変わった名前のイベントは、黒人音楽が好きな地元プレイヤーたちの社交場であり、一種の道場でもあったようで。

※この記事は2018年12月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.06』内、「フロム・ジェントラル・パーク」に掲載されたものです。文中で紹介されているイベントはすでに終了しています。ご注意ください。

ボストンからブルックリンに引っ越して1年が経ちました。引っ越すとき、半年もすれば自分のプロジェクトでギグを取れてるだろうくらいに高をくくっていたのだけれど、くくりすぎだったね。なんだかんだと右往左往しているうち、形になる収穫はないまま1年が過ぎてしまいました。

それでも形にならない収穫みたいなものは少なからずあって、週1のオープンマイク伴奏とたくさんのジャムに参加し続けたし、そのおかげで少しずつ、僕のことを認識してくれるミュージシャンも増えてきて、誰かのライブを見に行けば知り合いが演奏してることも増え、要はこの街のシーンと少しは親密になってきたのかもしれません。

僕は自分自身にすごい才能のあるタイプではないけれど、新しい環境に放り込まれたとき、いつも正しい扉を開ける才能には恵まれていると自負していて、ボストンでそれは前に書いたウォリーズだったし、ニューヨークでのそれは間違いなく、レッスンGKというクラブイベントだったと思います。

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レッスンGKはロウワーイーストサイドにあるアーリンズ・グロサリーで、毎週木曜晩に催されるライブ&ジャムイベント。そしてそのハウスバンドの名前でもあります。アーリンズ・グロサリーは歴史的にパンクとかノーウェーブで有名なロック箱だけど、木曜だけは別。黒いグルーヴを求めるファンで毎週入場規制になります。

夜11時に1stステージが始まり、60分、興が乗ると90分、ハウスバンドがノンストップで演奏します。ヒップホップともファンクともR&Bとも判然としないサウンドだけど、とりあえず曲みたいなものはなくて、誰かが提示したフレーズに他のメンバーが反応して音楽が立ち上がり、盛り上がり、チルし、また盛り上がり、チルし、気づくと終わっているという。



休憩を挟み、深夜1時ぐらいに2ndステージが始まります。やっぱりハウスバンドの演奏で始まるんだけど、10分ほど経ったくらいから五月雨式に、メンバーがステージ脇で待機している我々ミュージシャンと交代していきます。音楽は1stステージみたいに止まらないこともあるけど、止まって曲調をリブートさせることも多く、やっぱりワングルーヴで1時間飽きさせないというのは名人芸というか、ほんと難しい。

そんなわけで2ndステージは気がつくと全パートが飛び入りのミュージシャンに変わっていて、レッスンっていうイベント名はほんとよく付けたなって思うんだけど、このステージではお客さんのダンスを止めないようグルーヴを紡ぎながら、かつ知らないプレイヤー同士が互いの長所を探り合い、引き出し合う、そんな現場力みたいなものを研鑽しあう場所になっています。


Lesson GKのステージ。ベースを演奏しているのが筆者(右から3人目)。

休憩中にメンバーが次に弾くプレイヤーを決めて、あとはなりゆき。バックステージは真っ暗なんだけど、同じパート同士でもバチバチした雰囲気はなくて、むしろハグしあったり小声で励まし合ったり、お互いで応援しあう感じ。そりゃ腹の底では何考えてるかはわからないけど、こういうときはアメリカの神経症的なほどのナイスガイ文化に救われる気がします。

ステージに送り出されたら、コツはとにかく、すぐに弾き始めないこと。ここのステージはモニタが悪く、出音はクラブの爆音なので、プロでもたまに狂った音程を取ってしまいがちです。まず数小節聞いて、今度は数小節、自分の音を薄く重ねてみる。いくつかオクターブを変えて音が濁らないことを確認して、そこから本格参戦すれば絶対音感がなくてもなんとかなります。これもバックステージで教わったこと。

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