なぜ一部の男性は、できるだけ多くの女性を妊娠させようと必死になるのか?

性的虐待の背景にある権力と支配力

現代社会の男性の大多数にとって、複数の女性を孕ませたいという幻想は――所詮は幻想だ。Pornhubでは、「ナカ出しOK」というタイトルがつけられた動画がわんさとあるし、「マジ妊娠した!」というようなそれほど性的にあからさまではないコンテンツもある。14万4000人以上が集うr/breedingというサブレディット(仕事場での閲覧は要注意)は、お気に入りの“クリームパイ”、すなわち射精のクローズアップの動画や画像のリンクが大半を占めている。興味深いことに、妊娠フェチは必ずしも異性愛者の男性とは限らない。r/breedingの投稿者の多くは女性だし、ゲイの男性がこの用語を使うことも珍しくないとリー博士は言う。

一部の男性にとっては、妊娠フェチの性衝動は避妊具なしのセックスというタブー、または体液を交わらせるというスリルからくる場合もある。あるいは、例えばコンドームに穴を開けるとか、パートナーにパイプカットをしたと嘘をついてナカ出しするという妄想を抱く男性の場合、まさに「同意の上ではない」という事実がそそるのだ。だがリー博士も言うように、同意なしでの妊娠を妄想するのと、実際に事を起こすのとでは明確な違いがあることは言うまでもない。大方の人々は前者に属する。「同意のない行為を切望する人々は大勢いますが、彼らには自分を律する個人的特性があります。共感、社会的関係性、責任、道徳観です」と博士。

性的虐待の加害者全員に言えることだが、こうした特性が欠如した人々は妄想を実行に移す確率が高いとリー博士は言う。こうした行為は性的悦楽よりもむしろ「自分中心性、自己愛、あるいは共感や良心の低さと関係があります。ルールに従う、合意を守るという点では一種の反社会的特性ですね」と、リー博士は言う。これらは男たちを“ステルシング”、すなわちセックスの途中で相手に内緒でコンドームを外す行為に駆り立てるものだ。他の性的虐待の例にもれず、ステルシングもセックスが目的ではない。ステルシングをする男性は、同意という規範に反することで生まれる権力と支配力を満喫しているのだ。

故エプスタイン氏の場合、彼の受胎計画は見たところ違法ではなく、少女や若い女性も絡んでいないようだが、同じことは彼にも当てはまる。ブラウン・ハーヴェイ氏は、いまは亡き性犯罪者に理論上の診断を下すことを警戒しながらも、同氏にかけられたおぞましい容疑と照らし合わせれば、このような企てが広範囲におよぶ捕食習性とは無関係だと考えるのは不可能だと言う。「捕食習性で有罪となった人は、多くの場合それに付随するとみられる性的行動も、同意のない搾取的な性的行動と結びついています」と、ローリングストーン誌に語った。大量受胎を権力と支配力の究極の形だとする視点でみると、ニューメキシコの牧場に生殖工場を建てるという故エプスタイン氏の願望はますます陰鬱で穏やかならぬものに見えてくる。

Translated by Akiko Kato

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