なぜ一部の男性は、できるだけ多くの女性を妊娠させようと必死になるのか?

故エプスタイン氏による「DNA拡散計画」

これらの動機を裏付けているのは、こうした計画を企てたのが記事に出てくる不妊治療医だけでないという事実だ。性的人身売買で訴えられ、今月初めに刑務所で自ら命を絶った大富豪ジェフリー・エプスタイン氏は、一説によると「ニューメキシコに所有している牧場を拠点に、女性たちに自分の精子を注入して赤ん坊を生ませ」、遺伝子プールを「増強する」計画を立てていたと、7月にニューヨーク・タイムズ紙は報じた。彼の計画が違法だった、あるいは同意の下でなかったという証拠はないものの、故エプスタイン氏とこの件について話したことのある人物は、「突拍子もなく、穏やかでない」だと感じていた。

様々な好ましい特性を選別して増殖すれば、人類はもっと進歩できるという優生学や人種差別的(かつ、さんざん叩かれた)思想に根付いているからだ。いわゆる“セックスカルト集団”のネクセウムの指導者、キース・ラニエール被告の裁判で証言した元性奴隷の女性も、ラニエール被告が同様に自分のDNAを拡散させようと計画していたことを明らかにした。ある時ネクセウムのメンバーの1人が恋人と間に子供をもうけようとした際、被告の精液を使うのを拒否したところ、被告は怒り狂ったという。

これら男性の場合、彼らの欲求の源は火を見るよりも明らかだ。金と権力のある誇大妄想家なら、自己愛を満たすのに、自分のコピーロボットで世界を埋め尽くしたいと願うことほど素晴らしい考えはない。だがある意味、「自分の種をまく」という欲求は生物学的なもので、確実に昔から存在する。歴史上大勢の権力者たちが、何千とまではいかないまでも、何百人もの子供を生ませてきた。DNA調査によれば、16世紀清王朝のとある皇帝の男系子孫は、現代の中国にゆうに150万人はいるらしい。

また、現存する男性の200人に1人が、モンゴル帝国のチンギス・ハンの血を引いていると言う(2003年、ナショナルジオグラフィック誌はこうした調査記事を特集し、チンギス・ハンを“精力的な恋人”と呼んだ――おそらく受胎の大半がレイプによるものであることを考えれば、この表現には疑問が残る)。こうした歴史からも、自分のDNAを拡散したいという欲求は生得的なものと言えるだろう。「多くの男性が自分の種を広めたいと考えています。興味深いのは、こうした男性が自分のアイデンティティや権力の一部を、他人に自分の種を植え付けるという考えの中に取り入れたという点です」と、臨床神学者のリー博士は言う。

別の見方もある。「自分の種をまく」欲求は遺伝子に刻まれているというよりは、むしろ伝統的に男性の生殖能力と性的積極性を重んじてきた家父長文化の自然な流れだ、というのはセックスセラピストのダグラス・ブラウン・ハーヴェイ氏。ハーヴェイ研究所の共同創始者でもある。生殖は「男性が自らの力を地球上に何千年も残すための手段なのです。家父長制度、男系社会――これは文化や歴史、文明に浸透しています」と、ローリングストーン誌に語った。「人間の行動はどうしても性的指向に走ってしまう。家父長制度の存在ゆえに、我々はこうした執着を抱えているのです」

Translated by Akiko Kato

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