エルトン・ジョン自伝映画『ロケットマン』を事実検証

エルトン・ジョンの半生を描いた自伝映画『ロケットマン』が優れた娯楽作品であることは確かだが、その内容は事実に基づいているのだろうか? その正確性について検証する。(David Appleby/Paramount Pictures)

先日公開を開始した、エルトン・ジョンの自伝映画『ロケットマン』。ファンタジーに満ちたミュージカル作品において、事実に忠実であることは必ずしも重要ではなが、本作にはフィクションの部分が少なからず登場する。 

エルトン・ジョンの半生を描く『ロケットマン』は、自伝映画という枠組みに収まらない。ファンタジーたっぷりのミュージカルとなっている同作は、1990年代初頭に薬物中毒により憔悴しきっていたエルトンが、リハビリ施設でその波乱万丈な人生を振り返るという設定で進行していく。登場人物たちが見事な振り付けを伴うパフォーマンスを披露したり、その時点で完成していないはずの楽曲が登場するなど出来事の時系列を無視していたり、同作では事実に忠実であることよりもエンターテインメント性が重視され、エルトンの半生がこの上なくドラマチックに描かれる。

「僕が何より重視したのは、ミュージカル映画としての娯楽性だった」同作の監督を務めたデクスター・フレッチャーは本誌にそう語った。「エルトンは僕に、アーティストらしくあれと言ってくれた。クリエイティブでアーティスティックな彼の生涯を描く上で、それこそが正しいアプローチだったんだ」

そういったコンセプトが明確である以上、同作のファクトチェックを試みることはアンフェアに思えるかもしれない。しかしエルトンについて多くを知らない観客の多くは、本作のどこまでが事実でどこがそうでないのか、きっと興味を持つに違いない。見落としている部分もあるはずだが、本作におけるフィクションの部分を以下に列挙する。

1. バーニー・トーピンが「人生の壁」の歌詞を書いたのは1967年ではない

長年のパートナーとなる作詞家のバーニー・トーピンをジョンに紹介したのは、Liberty Recordsの社長Ray Williamsだった。その事実は本作にも反映されているが、映画では2人が出会う前からトーピンによる「人生の壁」の歌詞が登場している。同曲が完成するのは、2人が出会ってから2年後のことだ。また草稿が一瞬登場する「ダンデライオン・ダイズ・イン・ザ・ウインド」は、1967年作で間違いない。



2. エルトン・ジョンという名前はジョン・レノンとは無関係

映画でも描かれているように、Reginald Kenneth Dwightとして生まれた彼は、エルトン・ジョンというステージネームの一部をBluesologyで活動を共にしたエルトン・ディーンから拝借している。しかし、苗字の部分がジョン・レノンにちなんでいるというのは事実ではない。正しくは1960年代のロンドンのロックシーンで活躍し、駆け出しだった彼が師と崇めたロング・ジョン・ボールドリーからきている。彼はロッド・スチュアートを見出した人物としても知られている。

3. エルトンがDick Jamesを前にしたオーディションの場で弾いたのは「ダニエル」「ブルースはお好き?」ではない

当初からエルトンの才能を確信していたRay Williamsとは異なり、彼の上司であるDick Jamesは懐疑的だった。本作によるとエルトンは、1967年に行われたオーディションの場で彼を前に「ダニエル」と「ブルースはお好き?」を弾いているが、前者は1972年作であり、後者は1983年の曲だ。

Translated by Masaaki Yoshida

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