サマソニ現地レポ Suchmosが幕張で挑んだ「攻め」のセットリスト

SuchmosのYONCE(Photo by Kazushi Toyota)

じっとしているだけでも滝のような汗が滴り落ちる、サマソニ最終日。午後イチでMARINE STAGEに登場したのは、2017年にMOUNTAIN STAGEを沸かせて以来、これが2度目の出演となるSuchmosだ。

今年3月にリリースされた彼らの通算3枚目となる『THE ANYMAL』は、サブスクリプションの普及により「アルバム」のフォーマットがコンパクト化していく昨今の時流に逆らうような1時間越えの大作で、その内容も「ブルーズ」や「サイケデリック」「プログレッシブ」など、元々彼らが内包しつつもその洗練されたアンサンブルの奥底に忍ばせていた「バンドの真髄」とでもいうべき要素を解き放つ問題作でもあった。

「STAY TUNE」の大ヒットによって確立された、オシャレでアーバンなバンドのイメージをかなぐりすてるような内省的かつ実験的な楽曲の数々は、従来のファンを戸惑わせつつもその変わらぬクオリティによって圧倒し、これまで彼らにさほど興味がなかった人々をも巻き込んでいく。そんな『THE ANYMAL』を携え同月からスタートしたツアーはしかし、HSUの体調不良により2本が延期となり、6月のアジア・ツアーは中止になるなどバンドにとって試練の日々が続いたが、来たる9月8日に横浜スタジアムで開催されるワンマンライブに向けて、徐々に体勢を立て直してきた。今日のライブはその「前哨戦」とでもいうべき内容になるに違いない。

バックスクリーンに「Suchmos」のロゴが映し出され、コズミックなシンセのドローン・サウンドと動物の鳴き声をミックスしたSEが流れる中、メンバー6人がステージに登場。まず「You Blue I」からライブはスタートした。昨年のフジロックでも、アルバム発売前から「In The Zoo」とともに披露した7分に及ぶ大作で、引きずるような重たいリズムの上を、2本のギターとベースがブルージーにユニゾンし始めた瞬間、この日のセットリストは“フェス向けの手堅いヒットパレード”などではないことを確信する。髪を短く刈り込み、グレーのTシャツにアーミー・シャツを羽織ったYONCEが歌う、この曲のメロディはほとんどラーガのよう。抑揚を抑えつつも、ゆっくりとしかし確実に熱を帯びていくその青白い炎のようなアンサンブルによって、会場の熱気はさらに増し意識が朦朧としてくる。

「Suchmosです、よろしく!」

そうYONCEが短く挨拶し、続いて演奏されたのは「BURN」。2015年にリリースされた彼らの1stアルバム『THE BAY』に収録されたファンク・チューンだ。OKのタイトなドラムと、ビートルズの「Come Together」(ライブでも度々カバーしている)を彷彿とさせる、HSUのうねるようなベースが絡み合いながら漆黒のグルーヴを展開し、ここぞというタイミングで差し込まれるKCEEのスクラッチと、TAIHEIによる軽快なエレピのフレーズがサウンドスケープを立体的に彩っていく。曲の後半、“Beat it now don’t need no warfare”とシャウトするYONCEと、TAIKINGのワウギターが組んず解れつの掛け合いを繰り広げると、会場からは大きな歓声が鳴り響いた。畳み掛けるように「YMM」へ。アルバム『THE BAY』の冒頭を飾るライブではお馴染みのナンバーで、“I’m so cool He’s so cool She’s so cool We cool And you?”というサビのキャッチーなフレーズをシンガロングしながら、ようやくスタジアムが“フェスらしい”高揚感に包まれていくのを感じる。













と、思いきや、宙を切り裂くようなギターのカッティングに導かれスタートした、続く「VOLT-AGE」で再び場内はヘヴィかつディープなゾーンへ。「2018NHKサッカーテーマ」に起用され、そのアグレッシブなアプローチがコアな音楽ファンを歓喜させる一方、「(ヘヴィ過ぎて)盛り上がりにくい」という声も上がった“怪作”だけあり、セクションごとに目まぐるしく変化するアレンジや、わかりやすいカタルシスを欠いたメロディ、J-POPのフォーマットをことごとく解体した曲構成が、「Stay Tune」的なSuchmosを期待して来た人々を困惑させていたようだ。そんなフロアの様子を、まるで挑むようにじっと見据えながら歌うYONCEの表情も印象的だった。

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