2019年ロック最大の衝撃、ブラック・ミディの真価を問う

ポストパンク再評価と同時代性

─ブラック・ミディは本国イギリスだけでなく、アメリカでの評価もすでに上々みたいですね、とりわけ熱を入れているメディアがPaste Magazineで、コピーの煽り方も凄い。「自らが立ったステージを全てを破壊し、街を全焼する勢いだった」。

天井:(笑)。

─そのPasteによる記事「10 Essential Post-Punk Albums From 2019 (So Far)」でも、ブラック・ミディが真っ先に紹介されていました。ここ最近は、広義のポストパンク系バンドに勢いがありますよね。

天井:今はUKがまたそっちに振れているのかな。2010年代に入って、最初にギターバンド系で盛り上がったのはポスト・グランジや90年代のリバイバルでしたよね。そこからウルフ・アリスやピース、ダイナソー・パイル・アップといった人気バンドも出てきて。そのあとポストパンクの流れを作ったのが、シェイムやゴート・ガールといったサウス・ロンドン勢。その流れにアイドルズ(ブリストル)やフォンティンズDC(アイルランド)といったバンドが各地から加わって、現在のシーンが形成されていった。そんな印象です。




─ただ、ポストパンクとして一緒に括られるかもしれないけど、ブラック・ミディと今挙がったバンドの音はかなり異なりますよね。

天井:たしかに。同時期のポストパンクっぽいバンドだと、サックス奏者のシャバカ・ハッチングスも一時期在籍していた、UKジャズ界隈のメルト・ユアセルフ・ダウン辺りのほうがしっくりきそうかなと。

─凶暴かつ硬質な音楽性でいえば、2015年にデビューしたアイルランドのガール・バンドとか、アイスエイジ周辺の北欧・コペンハーゲン勢とも近そうな感じがします。

天井:北米だとプレオキュペーションズオウト、もっと広く含めるとメッツとか。UKだったらサヴェージズ。そういったポスト・インダストリアル系バンドの潮流から、ブラック・ミディを位置付けることもできそうですよね。




─そういうふうに近年のバンドとの接点や同時代性もあるにはあるんですけど、やっぱりバグとか突然変異みたいなバンドに映るんですよね。どうやってこんな不思議なバンドになったのか。

天井:Pitchforkのインタビューによると、ボーカル&ギターのジョーディ・グリープは、幼い頃からお父さんにジェネシス、クリムゾン、ピンク・フロイド、ザッパといったプログレを叩き込まれたらしくて。彼はソフト・マシーンとかゴングみたいなカンタベリー/ジャズ・ロックも好きなんだって。

─バックグラウンドに筋金入りの家庭環境があったわけですね(笑)。

天井:バルトークも好きって話してましたけど、たしかに牧歌的なところも結構ありますよね。クラシックや民族音楽、ジャズ、ロック、パンクの混合ということで、個人的にはジョン・ゾーンのネイキッド・シティ、エレクトリック・マサダなんかが思い浮かびますね。特に後者は、フリー・ジャズからユダヤ音楽のクレズマーやグラインド・コアまで融合させることで新たな音楽を立ち上げるってコンセプトもあったわけじゃないですか。あとはヘンリー・カウとか、チャールズ・ヘイワードも参加したマサカーといったレコメン系。そういうジャズとパンク、あるいは即興との境界線というか、はみ出した音楽と重なる部分があるのかなと。




─ジョーディと同世代で、そういう趣味に付いていけるメンバーが3人集まったのも奇跡ですよね。

天井:それがどうも、他のメンバーはグリーン・ディとかSUM 41が好きだったのが、ジョーディ君にオルグされちゃったらしくて(笑)。ボアダムズとかメルツバウを教えながら、バンドをオレ色に染めていったという。まあ、こういうサウンドをやりたいバンドは他にいたのかもしれないけど、その志に見合った知識と演奏力が備わってるのは(ブラック・ミディ以前に)久しくいなかったんじゃないかな。

─ジョーディ君はきっとカリスマ性のある人なんだろうなあ。

天井:声がまたいいんですよね。あの芝居掛かった感じの歌い方がサウンドともハマっている。

─各所で指摘されているデッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラや、ジェネシスにいた頃のピーター・ガブリエルみたいな。

天井:シェイムと同様、マーク・E・スミス(ザ・フォール)のボーカル・スタイルを彷彿とさせるところもありますよね。歌と喋りの中間的な叫び。あとはそれこそ、チャールズ・ヘイワードが歌うとああいう感じなんですよ。爬虫類っぽいというか、細身で神経質そうなところとか。



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