2019年ロック最大の衝撃、ブラック・ミディの真価を問う

ディス・ヒートと作曲/即興

─SNSでは「toeっぽい」という感想もたくさん見かけましたが、ブラック・ミディは日本のアンダーグラウンドな音楽にも精通しているんですよね。平均年齢が20歳前後とは思えないほどインプットの量と質がずば抜けているし、それらを消化してアウトプットする手腕にも秀でている。

天井:そこはアデルエイミー・ワインハウス、キング・クルールなどを輩出してきた芸術学校、ブリット・スクール出身というのも関係しているんでしょうね。音楽的な素養はもちろん、理論的な裏付けもしっかりしてそうだし。積み重ねてきた演奏力にも絶対的な自信があるから、それらをプレゼンテーションしたときに聴き手も聞き取れるんだと思います。


ブラック・ミディの4人。左からジョーディ・グリープ(Vo,Gt)、モーガン・シンプソン(Dr)、キャメロン・ピクトン(Ba,Vo)、マット・ケルヴィン(Vo,Gt)

─ブラック・ミディの曲は長時間のジャム・セッションから作られているそうで。そういう作り方をするバンドだったら、もちろん他人の曲をジャムったりもしてきただろうから、演奏に没頭するうちに染み付いたものが無意識的に出てきた部分もあるんですかね。

天井:それもあると思います。これまで弾いてきたものが手癖として出てきて、ジャムを重ねていくうちに曲のアイデアも洗練されていき、コンポジションに移行していく。もちろん、そのプロセスは簡単に図式化できるものではないと思いますが、“作曲と即興の中間”っていうのを上手いことやっている感じがしますね。

─“作曲と即興の中間”といえば、チャールズ・ヘイワード(ディス・ヒートのドラマー)が「インプロヴィゼーションとコンポジションの間にあるものに魅了されてきた。それは社会的交流と組織化のためのモデルでもあり、そのデザインと実行を同時にもたらすものでもある」と語っていますよね。最近、天井さんのTwitterで見かけました。

天井:そうそう。ブラック・ミディのことを考えながら、サイモン・レイノルズの『ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984』を読み直したりしてみて(笑)。やっぱり一番近いのはディス・ヒートじゃないかな。

─ディス・ヒートといえば、「セックス・ピストルズとキング・クリムゾンとの亀裂を埋める存在」「現代のエクスペリメンタル音楽におけるビートルズ」と謳われた伝説的バンドですよね。天井さんはブラック・ミディについて、「ディス・ヒート『Deceit』以来の衝撃かも」ともツイートしていました。

天井:勢いから出たところもあるのですが(笑)、まさにそんな印象を抱いています。ポストパンク期のひとつの頂点がディス・ヒートだと思っていて、特に演奏の強度やテクスチュアルな音の重ね方においても彼らとの繋がりを一番感じたのがブラック・ミディのサウンドだったんですよね。今はThis Is Not This Heatという名義で再結成していて、昨年の来日公演も観たんですけど、そのときの印象がオーバーラップするところもありますね。


ディス・ヒートが1981年作に発表した2ndアルバム『Deceit』収録曲「Paper Hats」

─たしかに、彼らの異様なまでに張り詰めたテンションは、ブラック・ミディとも通じるものがあります。

天井:曲の構成も似てるのかな。ディス・ヒートはテープループやダブ的なポストプロダクションを積極的に用いて、そこから“音響派の先駆け”とも言われてますけど、ブラック・ミディはそれを生演奏に置き換えているような感覚もある。

─面白いですね。最近のドラマーが打ち込みのビートを生演奏に置き換えるような感覚で、ブラック・ミディはディス・ヒートの音響実験を血肉化していると。

天井:それだけ演奏に自信があるんだろうし、学校やライブの場でみっちり叩き込まれてきた感じがしますよね。80年代に活躍したポストパンクのバンドって、基本的にノン・ミュージシャンの集まりだったじゃないですか。でもブラック・ミディは音楽家としての教育を受けていて、相応のスキルも備えている。そこがオリジナルのポストパンクと違うところじゃないですか。

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