リッチ・ブライアン独占取材 人生を変えたヒップホップとアジア発のアイデンティティ

リッチ・ブライアン(Courtesy of ワーナーミュージックジャパン)



最新作『The Sailor』とアジア人としてのアイデンティティ

―ニューアルバム『The Sailor』 のタイトルは探求することの象徴で、作品自体も「新たな領域に乗り出していく」ことについて、「移民たち」の視点からストーリーを描いているそうですね。リリックにまつわるヴィジョンもそこにある、という解釈で間違いないでしょうか。

ブライアン:そうだね。ヴィジョンというか、それは「プラットフォーム」かな。いろいろやってきたなかで気づいたんだ、これは僕独自の基盤だなって。言い換えれば、僕に開かれたチャンスでもある。ユニークな個性という意味でも、今まであんまり積極的に触れてこなかった題材という意味でも。それに、タイミング的にも相応しい気がした。

―というと?

ブライアン:今でも僕が音楽を作り続けている一番の原動力になっているのが、聴く人に閃きを与えたいということ。「よう、俺も前から音楽やってたんだけど、お前の曲を聴いたら久し振りに弾きたくなってギターを引っ張り出したよ」みたいな感想を言ってもらえるのが何より嬉しいんだ。自分もそうやって刺激を受けてここまできたから、今度は刺激を与える側にいるんだと思えるのがね。音楽をやっててよかったと思うし、続けていく励みにもなる。



―「今まであまり触れてこなかった」というのは、どういうことを指すのでしょう。例えば、1stシングルの「Yellow」でラップしているようなこと?

ブライアン:そうだね。あの曲を書いたのは、アルバムに向けて動き出した当初。だから、古い方に入るんだけど、あれを書いたことでアルバム全体のインスピレーションが広がったと言ってもいい。あの曲を書いた時、僕はちょっとおかしな状況にあって……人生のそういう時期だった、というか。とにかく4カ月ぐらいスランプに陥って何も書けなくなってね。壁にぶつかって、どっちにも進めない感じだった。もう終わりかな、って思ったくらい。

―出だしから「誰にも知られないまま、自分を消し去るにはどうすればいい?」と歌ってますもんね。

ブライアン:でも、あの曲のインストを聴いたらビリビリッと刺激が走って一気に視界が開けたんだ。自分のなかで、「Yellow」は映画的な曲だと思ってる。3章構成からなる映画。第1章が「葛藤」で、第2章で「変化」が訪れて、最終章ではそこから脱し、感動的な美しいアウトロに繋がるという。



―第2章のブリッジで、“自分がイエローだからといって、気持ちに抗わなくていいんだ”とラップしているのも印象的です。

ブライアン:この曲のリリックを書いている時は、実はアイデンティティについて何も意識していなかったんだ。その時の自分の気持ちを言葉に表現したい、ただそれだけだった。なんでこんなに面倒臭いんだ、なんでこんなに辛いんだ、みたいなリリック……最初のヴァースはまさに当時の気持ちを表していて、それをできるだけ無防備にさらけ出そうとしていた。それが2ndヴァースではスケールの大きな、希望を感じさせるヴァイブスに変わっていくんだけど、その辺りからかな。これは思っていたよりビッグな曲に展開していきそうだ、と感じ始めたのは。そして歌詞の面でも、今まで言えなかったようなことを言うチャンスかもしれない、この曲だったらたくさんの人に伝わるかも。共鳴する可能性があるかもと思えてきたんだ。

―音楽活動をするうえで、アジア人であることをどこまで意識していますか? アメリカでヒップホップをするということは、アジア人であることを再認識する経験なのでは、と想像しますが。

ブライアン:ヒップホップシーン全体のなかで、自分がマイノリティなのは間違いないし、たしかに厳しいと感じるところもあるよ。でも、そういうチャレンジは僕にとって自己証明の機会だ。何を誰に証明したいのか、というと、僕はもっとこう、なんだろ……とにかく、できるだけ多種多様な人に、僕の民族性ではなくアートそのものを語ってもらいたいんだよね。わかる?

―ええ。

ブライアン:そこを証明してみせたいって気持ちに、ますますなるだけだよ。

Translated by Kazumi Someya

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