北極圏グリーンランドで史上最高気温を計測、氷床の融解が急加速

わずか数十年前でも、今回のような大規模融解は想像もつかなかっただろう。今や島全体のメルトダウンは、ますます頻繁に繰り返すようになっている。場所による程度の差こそあれ実質的に氷床全体が同時に溶け出すような状況は、この7年で今回が2度目だ。前回の発生は2012年7月で、氷床の97%が同時に融解した。

1980年代は、冬のグリーンランドに降る雪が夏季に融解する氷の量を補完していた。また、地球温暖化の影響により氷が完全に融解するには何千年もかかるだろう、というのが科学者の間での通説だった。

今や状況が全く変わってしまった。

科学者らが過去10年〜20年を検証した結果、グリーンランドは2003年あたりに重要な転換点を迎えていたと思われる。以降、融解の速度は4倍以上早まっている。

2019年7月末〜8月頭にかけての1週間だけで、グリーンランドは約500億トンの氷を失うと予想される。地球全体の海抜を恒久的に約0.1mm上昇させるのに十分な量だ。同年7月までに、グリーンランドの氷床からは1600億トンの氷が失われている。フロリダ全体を深さ約1.8mの水底に沈められる量だ。気候変動政府間パネル(IPCC)の試算によると1600億トンという数字は、気候変動に対する有効な対策を打たず最悪のシナリオを辿った場合に、2050年時点で毎年夏の間に平均的に溶け出す量に近いという。同様の状況が続けば、2070年代には今回のような激しい熱波が平均的な気候になるだろう。

ベルギーのリエージュ大学に所属し、グリーンランドの氷床から融解する水を追跡している極地科学者のザビエル・フェットヴァイス(Xavier Fettweis)はローリングストーン誌へのメールの中で、現在発生している融解の状況について解説した。フェットヴァイスはIPCCによるシナリオが「我々が現在観測しているグリーンランドの氷床の状況を明らかに過小評価している」とし、将来のためにIPCCは試算を再検証すべきだ、と主張している。

「現在進んでいる氷床の融解は、我々にとって良い警告といえる。我々は今すぐに生活様式を改革する必要がある。北極地方に関するIPCCの想定はとても楽観的すぎると言わざるを得ない」とフェットヴァイスは指摘する。グリーンランドの氷床は、地球全体の海抜を約7.3m上昇させるだけの量の氷を有している。

グリーンランドの氷床融解が単独で発生している訳ではない。2019年の夏は、北極地方全体が異常な状況だった。

2019年、シベリア、スカンジナビア、アラスカ、グリーンランドでは夏の間に異常な件数の山火事が発生し、ある試算によると6月だけで約5000万トンの二酸化炭素が発生したという。スウェーデンの年間排出量に匹敵する数字だ。スイスでは、2019年7月末の熱波により氷河が一部溶け出した。融解の速度が早かったため、泥流が渦を巻いて流れ出したという。北極海では氷が融解する時季が長くなったため、海氷の大きさが記録的に小さくなっている。またアラスカでは、生態系が急速に変化しつつある。特に、2019年2月に凍結シーズンが終了したベーリング海では著しい。

恐ろしい状況とは裏腹に、グリーンランドに関する最新科学は希望をもたらしてくれる。グリーンランドにおける氷床の融解は、まだ不可逆的ではないというのだ。融解がさらなる融解を生む繰り返しのプロセスが、地球全体の気温を約1.5〜2℃上昇させると試算されている。つまり、グリーンランドの氷床が完全に溶け出してしまうかどうかは、我々人間がほぼ完全にコントロールできるのだ。世界経済の基盤を転換して化石燃料に頼らない未来を作るなど、世界中が総力を上げて対策すれば、現在凍っている氷をほとんどそのまま維持できるだろう。

Translated by Smokva Tokyo

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