殺人鬼チャールズ・マンソンの歪んだビートルズ愛「この音楽は無秩序な力を引き起こす」

結果的に「へルター・スケルター」は多くの人に知られる曲となった

1970年にローリングストーン誌がマンソンに接触した際、記者は複数のメッセージがつながる理由を説明してくれ、と頼んだ。彼はホワイト・アルバムの曲から何曲か選ぶよう言い、記者は「ビッギーズ」「ヘルター・スケルター」「ブラックバード」を選んだ――そこにマンソンがおまけとして「ロッキー・ラックーン」を加えた。彼は紙の上にそれぞれの曲のタイトルをさながら記事の見出しのように書き出し、「ヘルター・スケルター」の下に波線を、「ブラックバード」の下には鳥の鳴き声と思しき記号を2つ描いた。「この下の部分が潜在意識だ」と彼は言った。「それぞれの曲の最後には小さな印があるんだよ、いくつかの音がね。“ピッギーズ”の場合は“ぶうぶうぶう”とか、ちょっとした音。そういう音が全部“レボリューション9”で繰り返されているんだ。“レボリューション9”ではこういう音がすべてひとつに収まって、暴力による白人社会の転覆を予見しているってわけさ。“ぶうぶう”って音のすぐ後に、マシンガンの“タカタカタカタカッ!”って発射音が聞こえるだろ」

ビートルズが本気で革命を意味していたと思うか、という質問されると彼はこう言った。「潜在意識的なものだと思う。彼らが本気だったかどうか、俺にはわからない。でもそこにあるんだ。潜在意識の現れなんだよ」

あまりにも突拍子過ぎるので、バグリオシ氏はマンソンおよび共犯者を立件するにあたり、型破りな手法で陪審にアプローチする必要があると悟った。「普通なら、裁判では延々と証言を繰り返すのは避けるようにしている。陪審を敵に回すことになりかねないからだ」と彼は自著の中で書いている。「だが、マンソンのヘルター・スケルターの動機はあまりにも常軌を逸しているので、講釈する証人が1人しかいないとなると、陪審は誰も信じてくれないだろうと思った」。陪審には審議までに、2つのことをするよう求められた。ひとつは殺害現場に足を運ぶこと。もうひとつはホワイト・アルバムを事前に聴いておくことだった。

1971年1月25日、陪審はマンソン及び3人の共犯者に有罪評決を言い渡した。その年の4月、判事は被告らに死刑判決を言い渡したが、1972年にカリフォルニア州が死刑を撤廃したため終身刑に減軽された。

翌年以降、「ヘルター・スケルター」は――こんな事件がなければ、ビートルズの曲の中でも忘れられた存在になっていたかもしれない、滑り台についての隠れた名曲――意外にも、ビートルズの中でもっともカバーされた曲のひとつとなった。「この曲は、チャールズ・マンソンによってビートルズから奪われた」とボノは、U2が『魂の叫び』でカバーする以前にこう述べた。「俺たちが奪い返してやる」。エアロスミスやスージーズ・アンド・ザ・バンシーズ、モトリー・クルー、オアシス、ホワイト・ゾンビ、サウンドガーデン、ボン・ジョヴィ、ザ・キラーズなど、さまざまなアーティストがこの曲をカバーしている。誕生のきっかけを作った張本人――ロジャー・ダルトリー――もしかり。その名もHeltah Skeltahというヒップホップ・デュオや、マンソン・ファミリーと名乗るグループ、D.O.C.が『ヘルター・スケルター』というタイトルのアルバムをリリースしているし、アイス・キューブやエミネム、リル・ウェイン、ビッグ・パン、デス・グリップスらの曲では、“ヘルター・スケルター”が恐怖の象徴として描かれている。ビデオゲームや漫画、複数のTVドラマのタイトルにも使われている。

だが最も驚くべきは、マッカートニー本人が2004年を皮切りにこの曲を演奏するようになったことだろう。以降コンサートのセットリストの常連となり、昨年は野外フェスDesert Tripで2ステージともこの曲を演奏した。マッカートニーが演奏するこの曲のライブ音源はグラミー賞すら受賞している(ちなみに、この曲がグラミーにノミネートされたのはこれが初めてではない。1984年、The Bobsのアカペラバージョンがノミネートされている)。

「ボブ・ディランは、『抱きしめたい』の歌詞のI can’t hideをI get highだと思っていた」とマッカートニーは『ビートルズアンソロジー』で、「ヘルター・スケルター」との絡みでこう述べた。「ちょっとした愉快な解釈の違いは以前からあったけど、どれも無害で、くすっと笑えるものだった……でも、そういうささいな解釈のあと、とうとう最高に恐ろしい解釈が現れた。あの時点から全ておかしくなった。でも僕らのせいじゃない。僕らに何ができるって言うんだい?」

Translated by Akiko Kato

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