ウッドストック50周年、サンタナが語る「スピリチュアルな祝祭空間」

ニューヨークのベセルで行われたウッドストック・ミュージック・フェスティバルに出演したサンタナのカルロス・サンタナ(右)とベーシストのデヴィッド・ブラウン(Tucker Ransom/Hulton Archive/Getty Images)

今年でウッドストック50周年を迎えた。1989年8月24日発売号の米ローリングストーン誌の記事より、カルロス・サンタナのライブ回想記を再掲載する。ーー「ウッドストックはあらゆる人種の心をひとつにした」

無数の目、髪、歯、そして腕が大海原のごとく揺れ動いている目の前の光景に、私は怖気付きそうになった。スピーカーから発せられた音が、何十万という人間の体に跳ね返されれてくるようだった。あのサウンドは一生忘れないだろう。

ライブの出来は悪くなかったと思う。しかし私自身は、ステージで倒れてしまわないように必死だった。なぜならライブの直前に、強烈な幻覚剤をやっていたからだ。私たちが会場に着いたのは午前11時頃で、出演は夜の8時だと知らされた。だから私はこう言った。「ちょっとトリップするぜ。心配するな、ライブが始まる頃には正気に戻ってるさ」でもその効果がピークに達してた午後2時頃、スタッフから突然こう言われた。「君たちの出番だ。今出れないなら、出演はなしだ」

私たちはその日の夜まで会場に残り、盛り上がりがピークに達した瞬間を目にした。それはスライ・ストーンのライブだった。あれは彼にとっても、キャリア史上最高のライブだったに違いない。あのアフロヘアからは、文字通り熱気が立ち昇っていた。音楽だけに限って言えば、ウッドストックよりもオルタモントの方が優れていたと思う。多くの人々が亡くなったことには心を痛めたけれど、グレイトフル・デッドやジェファーソン・エアプレイン、そして私たち自身も含め、オルタモントでは皆が素晴らしい演奏をしてみせた。

ウッドストックにはスピリチュアルなヴァイブがあった。あらゆる人種が心をひとつにする魂の祝祭空間、そんな風に呼べるかもしれない。あの頃、多くの人間がベトナム戦争に反対し、ニクソンが敷いた体制に違和感を覚えていた。ハイト・アシュベリーであのムーヴメントを起こした人々から、私は理想と現実、そして本物と偽物の違いを教わった。60年代のヒット曲のコマーシャルに金髪のウィッグを被って出ていたようなインチキどもとは違い、彼らはリアルだった。多くの人間が、本物である彼らに感化された。アメリカン・インディアンと白人が寄り添って生きていく、そんな光景を思い浮かべることができた。ウッドストックはその一部だった。ベトナムで失われていたかもしれない命を救い、ニクソンから権力を奪ったムーヴメント、あのフェスティバルはその一部だった。

地獄のような光景だったという人々もいるが、私が目にしたものはまるで違った。人々は肩を寄せ合い、素晴らしい時間を共有していた。もしあれが羽目を外し過ぎなのだとしたら、アメリカの人々は週に1度は羽目を外すべきだということだ。ナイーヴな考え方かもしれないが、私は今もそう思っている。ポジティブでアーティスティック、そしてクリエイティブな力がアメリカを突き動かすのを、私は何度も目にしてきた。60年代にコンサートに足を運んだ人々の目的は、酔っ払うことでも女をナンパすることでもなかった。彼らが求めたもの、それは異世界へと誘うマインドトリップのような音楽体験だった。会場を後にする頃、人々は自分が生まれ変わったと感じていた。コンサートは現実逃避の手段ではなく、自分の中に眠る何かを呼び覚ますものだった。

アメリカが生んだ数多くの偽物は、ロックをギャップやマクドナルドといった大企業の産物にしてしまった。ショッピングモールで耳にするのは、どれも同じようなロクでもない音楽ばかりだ。本物のガンボの味を忘れ、誰もがキャンベルのスープで満足してしまっているように感じる。私たちに必要なのは、ジミ・ヘンドリックスやジム・モリソンのような本物の反逆者たちだ。

あの映画については、自分の姿を昆虫のように見せるあの魚眼レンズは気に食わないが、全てひっくるめて感謝している。単なる思い出ではなく、あの体験が映像として残されているのは喜ばしいことだと、私は妻に繰り返し言い聞かせている。ウッドストックに出演する機会を与えられたことに、私は心から感謝している。あのステージに立っていなければ、私は今も国境の向こう側でビザの発行を待ち続けていたかもしれない。



※本記事は1989年8月24日発売号の米ローリングストーン誌、本誌掲載記事を編集したものです。

Translated by Masaaki Yoshida

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