失敗を繰り返す人たちの物語、映画『さよならくちびる』ハルレオ誕生秘話

© 2019「さよならくちびる」製作委員会


──秦さん、あいみょんさんの印象はどのようなものでしたか?

塩田:秦さんのことは存じ上げていましたし、素晴らしいシンガー・ソングライターだと思っていました。あいみょんさんはまだブレイク前でよく存じ上げてなかったのですが、聴かせていただいたら「まるで河島英五」みたいな曲もあって。こんな人が、今どきいるんだなと非常に驚きました。このお二人に引き受けていただけたことは、本格的な「音楽映画」を作る上で非常に大きかったと思います。

──今回、『さよならくちびる』のノベライズのオファーを受けた相田さんは、率直にどう思われましたか?

相田:心から光栄に思いました。塩田監督というと、一般的には『害虫』で知られていると思うんですけど、2014年に公開された『抱きしめたい』という映画があって。北川景子さんと錦戸亮さんが主演を務めた実話ものの作品なのですが、大げさでもなんでもなく「小津安二郎作品に匹敵する」と思っているんですよね。

あと、監督には『映画術』という著作があるのですが、こちらはロベール・ブレッソンの『シネマトグラフ覚書 - 映画監督のノート』という名著に引けを取らない内容だと思っています。僕にとっては、そのくらいの存在なんですよね、塩田監督は。なので、引き受けないはずがないという(笑)。

塩田:光栄です。今回、自分が撮った映画を「ノベライズ」という形で改めて読んで、これってものすごく面白い仕事じゃないかと思いました。ノベライズには、ノベライズにしかない「自由さ」がある。いや、むしろ人が書いたシナリオをベースにしているからこそ面白いんじゃないか?って。

相田:まさにそうです。音楽でいうところのカヴァーを歌っているような感覚というか(笑)。人が書いた脚本だし、その内容は大きく変えていないのですけど、ちょっとしたところで自分の「コブシ」を回すことが出来る。そのことで、ちゃんと「自分の作品」になる感覚があるんですよね。いろいろな文章を書かせていただいていますが、ノベライズの仕事が一番好きです。


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──僕の個人的な印象では、「カヴァー」よりむしろ「リミックス」に近いのかなと思いました。脚本という「素材」を基に、自分なりの感覚を加えて再構築していく、という意味で。

塩田:ああ、確かにね。リミックスっぽい。

相田:そういう要素もありましたね。特に今回は、時制を入れ替えるなどよりリミックスっぽい作り方だったかもしれない。映画自体、進行していく現在と、フラッシュバックする過去が入り混じっているのですが、小説における「現在と過去」は、映画におけるそれとは違っていて。

例えば映画では「過去」については徹底的に語らないことに徹しているので、その語られていないところの情景を、観客が想像力で補っていくわけですが、小説ではあえてハル(門脇麦)のモノローグを中心にして、彼女にとっての「過去」についても語りました。ただ、語ることで読者には別な想像力も生まれるはず、と思っています。

──逆に、レオ(小松菜奈)の過去については、映画でも小説でもほとんど語られていません。

相田:なぜなら、ハルにもおそらくわかっていない領域だから。そこがかなり映画の肝でもあるんですよね。「一番好きな人のことが、一番わからない」という不可能性。わからないからもがくし、わからないから抱きしめることもできない。自分の思いすら持て余してしまう。そういう経験って誰しもあると思うんですよ。大切な相手のことが「わからない」から、どうすることもできない領域が自分の中にあることも発見できる。相手の存在で、初めて見えてくる自分がいる。それはキツいこともあるけど、だからこそ素晴らしいともいえます。

ただ、ハルのモノローグだけでは描ききれない作品なので、時々シマ(成田凌)の視点を入れています。ハルの感情になりきり過ぎていると、書いている僕もだんだん疲れてくる(笑)。なので、シマで一息いれる感覚ですね。ただ、不思議なことに女の子の気持ちを描くよりも、男性の気持ちを描く方が難しいんです。男が男のことを描く責任みたいな、妙なバイアスがかかってしまうのでしょうか(笑)。「女の子を好きになってしまう女の子」の気持ちの方が、すんなり入っていけたんですよね。

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