SpotifyとApple Music、近年の闘いは音楽配信ではない領域

音楽ストリーミング市場の覇権争いは、全オーディオ製品のバトルへと拡大している。 DIEGO AZUBEL/EPA-EFE/Shutterstock

投資と買収を行いながらポッドキャスト市場の覇権をめぐって争う音楽ストリーミング大手2社である、SpotifyとApple。最終的に市場を制するのはどちら?

2019年、音楽ストリーミングに不思議なことが起きた。SpotifyとAppleという業界最大手の2社が、自らを音楽配信サービス会社と称するのをひっそりと辞めたのだ。技術系最大手のSpotifyとAppleは、依然として何百万曲を誇る楽曲カタログを自社のコア製品として宣伝してはいるものの、2019年以降はほかのエリアにおける両社の大々的な動きが顕著になっている。

そのエリアこそ、音楽以外のオーディオコンテンツ、とりわけポッドキャストである。視聴率調査を実施している米ニールセン社の最新オーディエンスレポートによれば、ポッドキャストは毎週アメリカの成人人口の5分の1を惹きつける急成長中のフォーマットだ(10年前と比較すると倍の成長)。ここ最近、Spotifyはコメディアンのジョシュ・アダム・メイヤーズや、バラク・オバマ元大統領とミシェル夫人のようなセレブリティを起用し、話題性の高いポッドキャストづくりに取り組んできた。同社はポッドキャストに3億ドル(およそ330億円)を投資し、ポッドキャスト会社2社を買収し、音楽アルバムと同じくらいポッドキャスト番組を魅力的に見せられるよう、アプリ体験の再デザインにも着手してきた。かたや、Appleも負けじと自社製ポッドキャストへの出資に向けて準備を行っている、と米ブルームバーグ社は報告した。Appleによる取引内容の詳細は、現時点では不明である。

ウェブサイトのパブリッシャーや、オンライン広告の広告主向けサービスに特化したポッドキャスト会社Voxnestは、オーディエンスネットワークデータを使ったレポートを6月23日に発表し、SpotifyとAppleを比較した場合、後者のほうがポッドキャスト市場において優勢であることがわかった。だが、その差はごくわずかである。ドイツ、ブルガリア、オランダなどのヨーロッパにおけるSpotifyの圧倒的な人気は、こうした国々の今後の成長率があるからこそ、じっくり見守ることが「極めて重要」である、と報告している。有料会員制度によってApple Musicがアメリカの市場を牽引するなか、グローバルレベルではSpotifyがリードしている、という音楽ストリーミングと似たような、国ごとの違いが見られる。さらには、何とかして市場に入りこもうと努力を続けるPandoraやLuminaryなどのオーディオ会社による、ターゲット化されたポッドキャストへの取り組みという要因も考慮しなければならない。

我々は「誰がトップの座に就くのか?」ではなく、「誰がポッドキャストでより多くの利益を得るのか?」と問いかけるべきなのかもしれない。アナリストの多くは、Spotifyによるポッドキャストへの取り組みは、音楽ストリーミングサービスをより多彩なものにするための戦略である、と考えている。その一方、Appleにとってポッドキャストを拡大することは、2005年以来iTunes(サービス終了予定)という同社の製品エコシステムのなかで育まれてきたサービスの拡大を意味する。7月25日の米Vulture誌の分析レポートは、ストリーミングサービスとスマートスピーカーなどの消費者向けハイテク機器の進化のおかげで「(ポッドキャストの)重要性と、そこから得られる利益は劇的に変化した」と分析している。要するに、大きな未開の市場の存在が明らかになったことで、誰もが我先にと入り乱れて参入している状況なのだ。

Translated by Shoko Natori

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