フジロック現地レポ 銀杏BOYZに宿る「声の力」と音楽の深さ

文字通り「伝説」となったフジロックの初舞台

そして峯田は、「音楽に救われた瞬間」のエピソードを話し出した。10年くらい前、アルバムのレコーディングがうまくいかず、スタジオから飛び出たことがあるという。「もうバンドなんかやりたくねえ」と思い、タクシーに乗って環七を走っていたその時、ラジオからRCサクセションの「スローバラード」が流れ始めたそうだ。

「なんてタイミングでこんな曲が流れるんだ……と思いながら、運転手さんに『ちょっとボリューム上げてくれ』って言ったんですよね。それで清志郎さんの声が、タクシーの中ものすごいボリュームで響き渡ったんです。“(歌い出す)昨日は車の〜”って。そしたらタクシーのおっちゃんが、『いいなこの曲』って。『うるせえ、黙っとけ。邪魔すんな』っつって。車窓を流れる東京の景色を見ながら、おっちゃんと2人で聴いてたんです。“スローバラード”を聴きながら、『もう一度、3人でやってみよう』って思えたんですね。それでアルバムを完成させて。あの時、“スローバラード”がかかっていたから、俺は救われたような気がします。みんなにとっても音楽がそうでありますように。……あの時のメンバー、元気かな。あの時の彼女、元気かなあ。あん時なんでみんな、笑ってるんだべな。全部メロディと共にある。あの子の顔もメロディと共にある。あのタクシーからの眺めも全部メロディと共にある。ここフジロックも、国も政治も、メロディと共にある。聴いてください、“恋は永遠”!」

こんな曲紹介をされて、平常心でいられるわけがない。キラキラとしたリッケンバッカーのアルペジオと美しいメロディ&コーラスが、60年代ロックを彷彿とさせるこの曲にもみくちゃにされ、気づけば隣の人と泣きながらシンガロングしていた。

さらに、新曲「いちごの唄」(峯田と岡田惠和による、同名小説と同時に企画が進行した映画の主題歌)、GOING STEADY時代の名曲「愛しておくれ」を披露し、再び唾液と汗まみれになりながら「SEXTEEN」を熱唱。持ち時間を超えながらも「BABYBABY」そして「ぽあだむ」と畳み掛けてステージを後にした。

「生き延びてください。何やってもいいから生き延びてください。そしたらまた会えますからね? ハッパやってもいいっすからね。闇営業やってもいいっすからね。生き延びてください。生き延びたらまた会えますよ? どうもありがとうございました。銀杏BOYZでした!」

ひしめくオーディエンスに向け、ひざまずきながら必死でそう訴えた峯田。GREEN STAGE横の巨大スクリーンに映し出されているのは、涙と汗でぐしゃぐしゃになったオーディエンスたちの美しい顔。結成から15年、初のフジロック参加となった銀杏BOYZのステージは文字通り「伝説」となった。


Photo by Kazushi Toyota

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