フジロック現地レポ シーアが挑んだパフォーマンス・アートと音楽ライブの融合

シーアは27日(土)、フジロック2日目のGREEN STAGEに出演した。(Photo by Kazushi Toyota)

各日ごとに世代の異なるバンド/アーティストがヘッドライナーを務めた2019年のフジロックフェスティバル。中でもシーアは2010年代における最重要シンガー/ソングライターとして、現代を代表するアイコンの一人だ。一日中降り続いた雨のせいでGREEN STAGEのコンディションは最悪にも関わらず、会場には後方いっぱいまで人が詰めかけている。多くの人の胸中にはポップ・シーンの最先端を目撃したいという思いがあったに違いない。

その期待は、開幕後すぐに確信へと変わった。真っ白な舞台に真っ白なマイクというシンプル極まりないステージに現れたシーアは、これまた真っ白なドレスと大きなヘアリボンという出で立ち。トレードマークでもある金・黒のボブカットで素顔を隠したまま、「Alive」を歌い始める。ドレスのように見えていたフリルが動き出し、その中から“生まれ落ちた”かのように登場したのは、シーアと同じ髪型をしたダンサーのマディー・ジーグラー。〈私は雷雨の中で生まれた〉というラインで始まり、孤独と絶望の中にも脈打つ生の実感を歌いあげるこの曲の感情は、豪雨の中で踊るダンサーの姿と完璧に重なり合っていた。


Photo by Kazushi Toyota


Photo by Kazushi Toyota

その後も、微動だにせずただエモーショナルに楽曲を歌い上げるシーアと、曲に合わせた振り付けではなくバレエや現代舞踊のようなダンスを踊るダンサー数人によって、ステージは進んでいく。演奏する楽器隊がいないのはもちろんのこと、シーア自身もステージ上ではほとんど目立つことなく舞台装置の一部となり、代わりに観客を魅了するのは見事な身体の躍動を見せるダンサー達だ。

豪華絢爛な舞台セットや多数の出演者、強烈なエゴを照射するパフォーマンスといった、ポップ・コンサートのステレオタイプとは何もかもが真逆。それどころか、アーティストのエゴは曲を追うごとに希薄になり、最初は中央にいたシーアはだんだんとステージの端へ居場所を移していく。それとは対照的に、シーアの生まれ変わりのような少女や女性、一人きりオフィスで頭を抱えるスーツ姿の男性、熱愛と衝突を激しく繰り返す男女カップル等々、ダンサー達は楽曲ごとに様々な役割を演じ分け、引き締まった身体を介して楽曲に込められた感情を爆発させる。


Photo by Kazushi Toyota


Photo by Kazushi Toyota

脇のスクリーンには、名優ポール・ダノが電話でのクレーム対応に追われる男性を演じるなど、舞台上の役とリンクした映像の他にライブ映像も流れている。……のだが、よくよく見るとその映像は目の前の現実とは少しズレている。その演出は「Unstoppable」のパフォーマンスに最も顕著に表れていて、シーア似の女性が2人の男性が持ってきたガラスを繰り返し叩き割るのだが、舞台上でガラスは実在していないのに対して、映像では本物のガラスが何度も粉々に砕け散るのだ。同じ動きを捉えた虚の映像と実のパフォーマンスを通して、次第に虚構と現実が入り交じっていくという手法もまた、普通のライブではあり得ない斬新なアイデアと言えるだろう。

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