フジロック現地レポ ケミカル・ブラザーズの「王道」が正しいことを示した夜

ケミカル・ブラザーズは26日(金)、フジロック1日目のGREEN STAGEに出演した。(Photo by Kazushi Toyota)

王の帰還。ケミカル・ブラザーズによる通算5度目のフジロック・ヘッドライナー出演には、そんな言葉がふさわしい。フジロックフェスティバル黎明期には、ほぼ毎年のように出演してカルチャーの礎を築いてきた彼らだが、気づけば今回の出演は実に8年ぶりだ。

夕方から降り出した雨が一旦上がり、ひんやりとした冷気に包まれたGREEN STAGEには続々と人が集結。ジュニア・パーカーによるビートルズ「Tomorrow Never Knows」のカバーが流れる中、トム・ローランズとエド・シモンズの二人がステージに登場すると、客席からは割れんばかりの歓声が上がる。ヒプノティックな音が少しずつビートに変化すると、聴こえてきたのは「Go」。2015年リリースのアルバム『Born In The Echoes』収録曲のため、フジロックの舞台でこの曲が鳴らされるのは今回が初めて。序盤から大幅にアップデートされたケミカル・ブラザーズを見せつけた。


Photo by Kazushi Toyota


Photo by Kazushi Toyota

続いて、アメリカの詩人ダイアン・ディ・プリマの詩を引用した、最新アルバム『No Geography』収録曲「Free Yourself」へ。スクリーンの映像には、糸でぐるぐる巻きになった人やイスに嵌って抜けられない人など何かに縛られた人々の姿が映し出され、幾度となく「自分を解き放ちなさい」という言葉が繰り返される。ケミカル・ブラザーズのサウンドにはピッタリのメッセージだ。


Photo by Kazushi Toyota

前半は『No Geography』と『Born In The Echoes』の楽曲を中心に組み立てられ、最新モードのケミカル・ブラザーズを見せつけるような構成。驚かされたのは、それらの最新楽曲がプレイされるたびにオーディエンスから大きな歓声が上がっていたこと。キャリアの長いアクトであればあるほど、代表曲やヒット曲の演奏待ちをするライトなファンが増えて、えてして最新曲に反応が薄くなるものだが、今回のケミカル・ブラザーズを見る限り、そんな不幸とは無縁。その理由は、彼らの楽曲が初見であっても伝わるキャッチーさを保ちながら、今なお第一線で活動し続けているからだろう。リリースした9作のアルバム全てを全英トップ10に送り込み続ける(そのうち、全英1位作6枚)、イギリスが誇る国民的スターのエネルギーはいまだ衰えを知らない。

セットが中盤に差し掛かるにつれ、最新楽曲と並んで往年の大ヒット・シングルが観客を大いに沸かせる場面も増えていく。「Star Guitar」のあのスネアが鳴り響いた瞬間には会場中から歓喜の声が漏れ、「Hey Boy Hey Girl」ではオーディエンス全体で「Here We Go!」の大合唱。フジロックでのケミカル・ブラザーズを体験したことのある人ならば、誰もがかけがえのない思い出として記憶しているだろう、あの美しい光景が今一度眼前に広がる。共に多くの体験を共有しながら、長い年月を生き抜いてきたフェスとアクトの組み合わせだからこそ生まれる化学反応がそこにはあった。

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