小さな町のベーカリーと地元大学が衝突、保守派とリベラルの代理戦争に

米オハイオ州オーバリンにあるGibson’s Bakery(Photo by Dake Kang/AP/Shutterstock)

米オハイオ州クリーヴランドから35マイルほどの距離にオーバリンという町がある。オーバリン大学の生徒たちで賑わう場所だ。この土地に店を構える創業134年のベーカリー、Gibson’s Bakeryで起こったある出来事がとんでもない事態に発展していく。

この店で扱うのは雑貨や日用品の他、クッキーやペストリー、シュガードーナツなど。オハイオ州の酒税法で度数の高い酒類は販売できないが、Gibson’sでは一部ビールやワインも扱っている――ほとんどは、酔えりゃなんでもいい、という大学生しか飲まないような安物の酒だ。3年前、この手の酒が2本盗まれた事件が火種となり、のちに大きな騒ぎとなってしまう。2016年11月9日、オーナーの孫で従業員のアレン・ギブソンJr.氏が、店の前でオーバリン大学の黒人学生を呼び止めた。その学生は偽造IDでワインを買おうとしていたとみられるが、ギブソン氏は彼がコートの中にボトルを2本隠しているのではないかと疑った。

警察の調書によると、学生はワインを盗んでいないと言った。ギブソン氏が携帯電話で写真を撮ろうとすると、学生は携帯を叩き落とした。そして学生は店から走り去ったが、ギブソン氏は道向かいの公園まで彼を追いかけた。複数の目撃者の証言によると、ギブソン氏は学生の背後からのどを絞めつけ(ただし、オーバリン警察は疑問視している)、2人の女子大生がもみ合いに加わった。ここから先はいささか漠然としている。オーバリン警察の調書には、ギブソン氏が「仰向けに倒れたところへ、何人かが馬乗りになって殴る蹴るの暴行を加えていた」のが目撃された、とあるが、現場の目撃証言は、学生に殴りかかろうとするギブソン氏を、加勢した別の学生2人が止めようとした、としている。

小規模なリベラル派のアートカレッジ、オーバリン大学は1980年に創立。政治活動の拠点としても有名だ。初めて黒人学生および女子学生の入学を認めた私立大学のひとつで、地下鉄道(19世紀に黒人奴隷たちが南部の州から北部の州へ逃亡するのを助けた地下組織)の中継地でもあった(実をいうと筆者もオーバリン大学出身。2011年に卒業後、1年間講師として勤務した)。だから、学生たちがGibson’sの店先で起きた事件に対し、店頭抗議デモや不買運動をしたのも当然だった。

2016年11月10日、何百人もの学生がGibson’sの店頭に集まって抗議した。Gibson’sは人種差別的で、ずいぶん前から人種による偏見や差別を行っていたーーという内容のビラが配られた。大学職員や教授らも大勢かけつけ、メレディス・ライモンド学生部長の姿もあった。裁判所の記録によると、彼女は拡声器で群衆に呼びかけ、学生の作ったフライヤーを報道記者に手渡した。

Translated by Akiko Kato

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