マフィアのボスを殺害した犯人、止まらぬ妄想と陰謀論「俺はトランプの自警団」

マフィアのボス、フランク・カリ氏殺害で逮捕されたアンソニー・コメロ被告(Photo by Seth Wenig/AP/Shutterstock)

アンソニー・コメロ被告(24歳)がマフィアのボス、フランク・カリ氏を殺したのは、トランプ米大統領を狙った陰謀に加担していたと思い込んでいたため、と弁護士が主張。

2019年3月、マフィアのボスとみられるカリ氏がNYのスタテンアイランドで無残に銃殺されたとき、当然マフィア絡みの殺人だろうと推測された。出世を狙うガンビーノ・ファミリーの若造の仕業か、あるいは来たるマフィア戦争の前触れだろうと。だが、詳細が明らかになると、事件はさらに複雑化した。カリ氏殺害で起訴された24歳のアンソニー・コメロ被告はカリ氏の姪と恋仲で、カリ氏はこれをよく思っていなかったようだが、マフィアとはとくに一切関係がなかったとみられる。

そして先日提出された裁判資料により、コメロ被告の詳しい動機が明らかになった。被告をカリ氏殺害へと駆り立てた理由は陰謀論ムーブメント「Qアノン」を信じていたため。つまり、ドナルド・トランプ大統領を狙った陰謀計画が秘密裏に進められているという噂を信じていたためだという。

新たに提出された裁判資料によると、コメロ被告の弁護を担当するロバート・C・ゴットリーブ氏は、スタテンアイランドのトッドヒル近郊にあるカリ氏の自宅に到着した際、被告は殺すつもりはなかったと主張している。その代わり、被告は彼を逮捕しようとした。その証拠に、警察は逮捕時に被告の車から手錠を発見している。コメロ被告はインターネット上のフォーラムに夢中になり、左派政府組織の陰謀の存在に憶測をめぐらせていた。「コメロ氏は、自分がトランプ大統領本人から特別に守られている、大統領から全面的なサポートを得ていると確信していた」と、ゴットリーブ氏は記している。こうした主張を通して、ゴットリーブ氏は依頼人が精神疾患のため無罪であると裁判所を説得し、殺人起訴の取り下げを期待しているのだ。

4chanの匿名メッセージボードに端を発する陰謀論は、匿名の人物「Q」にちなんでQアノンと名付けられた。機密事項へのアクセス権を持った政府高官を自称するQは、トランプ大統領をねらったディープステートの陰謀計画を知っているという。そして、ヒラリー・クリントン氏やジョン・ポデスタ氏、バラク・オバマ前大統領など大物民主党員が児童売春組織のメンバーであり、ロバート・ムラー捜査官によるトランプ大統領のロシア疑惑に対する捜査は表向きで、本当は売春組織を捜査していたのだ、などの説を展開している。Qアノンを信じる人々はいつか「嵐」がやってきて、トランプ大統領が陰謀者の招待を暴き、グアンタナモ収容所送りにすると考え、トランプ氏の集会や演説に、嵐の到来をほのめかす「パンくず」がないかと探っている(こうした主張を裏付ける証拠は一切ない)。

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE