旧東ドイツ出身のロックバンド、ラムシュタインが祖国の「今」を歌う理由

ラムシュタインのヴォーカル、ティル・リンデマン(Photo by JENS KOCH)



「リスナーを驚かそうと思っているわけじゃない」

ラムシュタインの白塗りバスター・キートンと呼ばれるキーボーディストのフラケ・ロレンツが最後にメイク室に現れた。ライブでの彼は、ティル・リンデマン演じる邪悪な殺戮者の対極にいるおどけ役を演じる。2015年以来、ロレンツは2冊の回想録を出版した。東ドイツのパンク少年時代とラムシュタインのメンバーになってからの話が書かれている。外ではグループショットのためにランプと袖のカフスが整えられていて、2〜3分おきに誰かがドアを開けて、ロレンツの準備ができたか確認する。インタビュー室でフラケはラムシュタインのコンセプトを定義する事柄について掘り下げる。

「あのトレーラーが重要だった理由は、どれだけ多くの人が全体の文脈を見ないで物事に反応するかを明らかにしたことだ」とフラケ。「ときどきはドイツのことになると敏感になる理由を自問してみてもいいと思うんだ。もちろん、俺たちはみんなを刺激しようと思っていたよ。だって、みんなは自分に投げられた食べ物を無謀にもすべて鵜呑みにしてしまうってことを伝えたかったから」

でも、なぜドイツなのか? どうして今なのか? なぜこんなふうにしたのか? フラケの答えはこうだ。「あの曲は俺たちとドイツという国にある曖昧な関係を表しているんだ。そしてビデオはその関係が発生した根源を示している。もちろん、俺たちはストレートで取るに足りない曲なんて作る気はなかった。ラムシュタインは警官をブタと呼んだり、『ファック・ジャーマニー!』と叫んだりするパンクバンドじゃないぜ。アーティストとしてこれらの題材をメタファーを使って演奏しているし、単純なスローガンとは違う奥深いところまで掘り下げている。それが俺たちの基本的な目的なんだよ」

過去の出来事に関しても、現在の政治情勢に関しても、これこそが東ドイツ出身のバンドならではの独特な痛みの感覚で、実は見落とされがちでもある。「俺たちが育ったのはドイツ民主共和国だ。あるとき突然ドイツ民主共和国は消滅した。おかげで俺たちの経歴は破棄された」と言って、フラケが説明を続ける。「これこそが俺たちがもっと掘り下げるべきだってことだよ。この状況になったのは自分たちの責任なのか? それともこのアイデンティティの葛藤は(東西の関係なく)ドイツ全体を駆け巡ることなのか? よくよく見ると、暴力、戦争、苦悩の歴史が見える。そういうことを頭の片隅に刻んでおくと、今の人たちが、ケムニッツとかどこでもいいけど、外に出て『ドイツ!』と叫ぶのは興味深い現象だよ」と。

「リスナーを驚かそうと思っているわけじゃない。衝撃は人を麻痺させる。そうなると人は反応できなくなる。それは嫌なんだよ。人を刺激したいし、それによって人を動かしたい。それってエンターテイメントとは真逆だ」とフラケが言って、やっと腰を上げて写真撮影に向かう。

しかし、挑発すること自体が現在ではかなりトリッキーになっているのではないか? そんなに簡単にできるのことなのか? フラケが答える。「昔とまったく変わらないよ。ローリング・ストーンズがやった。俺たちもやっている。今から25年後にも同じことをやるアーティストがいるよ。見え方が違うってだけ。でも、それを見た人たちは今と同じように不機嫌になるのさ」と。

飛び散る火の粉の真ん中に立ちながら無傷でいる。火の中に深く舌を突っ込みながら痛みは感じない。ロックンロールだ。彼らは耐火性の生命力を持っている。


ラムシュタイン(Photo by JENS KOCH)

著者:ヨアヒム・ヘンチェル
独英翻訳:ルーシー・ジョーンズ
編集:ガリーナ・グリーン
写真:イエンス・コッホ
スタイリスト:アレクサンドラ・ヘッケル
スタイリングアシスタント:マヤ・ルー





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Translated by Miki Nakayama

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