旧東ドイツ出身のロックバンド、ラムシュタインが祖国の「今」を歌う理由

賛否両論を呼んだ問題のシーン

MV公開の2日前の2019年3月26日にこのトレーラーが公開されると、利口な視聴者ですらこのシーンの真意を測りかねていた。「どうしてバンドメンバーがナチス親衛隊の制服を着て、首を吊られる男の足台を蹴飛ばす役じゃないんだ?」と、国際アウシュビッツ委員会の責任者クリストフ・ヒューブナーがコメントした。この時点で、ヒューブナーは自分が言った言葉通りのことを完成したビデオの中でラムシュタインが行うことを知らなかった。ドイツユダヤ人中央議会から政府の反ユダヤ主義長官まで、ほとんどのコメンテーターはこのクリップの真意を紐解こうとすらしなかったのである。そして、ビデオ全編に流れる意味合いなどまったく関係なく、コメンテーターたちは「商業的なポップソングを宣伝する材料としてホロコーストの深刻なシンボルを使うのは許されない」と断言したのだった。



このような非難を本人たちはどう捉えているのか? 「正直な話、あんなに大騒ぎされるとは思っていなかった」とドラムのクリストフ・シュナイダーが教える。「俺にとって、あれはビデオを象徴する強烈なシーンなんだ。誰かを嘲笑っているわけじゃないし、何かを物笑いの種にしているわけでもない。ただ、絞首台からラムシュタインが吊られているというのが人によっては逆鱗に触れたようだね。これについては後で話し合ったよ。あれで良かったのかとか、他のシーンを選ぶべきだったのかってね。でも、俺はあのシーンで正解だと今でも思う」と。


ラムシュタインのベース、オリヴァー・リーデル(Photo by JENS KOCH)

クルスペも他にやりようがあったかもしれないと認める。そして「でも突き詰めると、俺たちはビデオに注目してもらいたかったし、その点では成功したよ。あのトレーラーはものすごい数の視聴者を引き寄せたからね」と言う。

2日後、9分強の壮大で大げさな「ドイチュラント」のMVが公開されたとき、人々の反応はポジティヴなものだった。ただ、右派ポピュリスト系のユンゲ・フライハイト紙はこのビデオを酷評した数少ないメディアの一つで、彼らは気取った調子でラムシュタインを「普通の方法で自分のルーツと対峙できないことが明らかな人間たちを『ドイツかぶれ』だと避難すること以上に間違ったことはないだろう」と切り捨てた。また、ローリングストーン誌のライターのイェンス・バルツァーは、スペクターの歴史的イメージを細かく切り刻む戦略をディー・ツァイト・オンラインへの寄稿で「ここでは、加害者も被害者も、残酷さも共感も、冷たいシニシズムも束の間の謙遜も、ファシスト的態度と反ファシスト的態度を引用するゲームも、容赦なく流血して一つになり、最後に残るのは混乱した頭だけだ」と表現した。

Translated by Miki Nakayama

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE