旧東ドイツ出身のロックバンド、ラムシュタインが祖国の「今」を歌う理由

ラムシュタインのヴォーカル、ティル・リンデマン(Photo by JENS KOCH)



過激なミュージック・ビデオの製作舞台裏

「最初にあの曲を聴いたとき、気まずすぎて笑ってしまった」と、2018年の秋にまだ未完成のラムシュタインの新作を聴いたときを思い出してスペクター・ベルリンが語る。スペクターはベルリン在住のメジャーな芸術監督であり映画監督。「ドイチュラント」のミュージック・ビデオを撮影した。「これはみんなが待っていた曲だ。どうしてもドイツを愛せないことを歌っているじゃないか。このテーマを取り上げた彼らの勇気はすごいと思った」と話した。

しかし、コンセプトを決める作業は苦しみの連続だった。「アイデアを4〜5つ考えたが、すべて彼らに拒否されたんだ。産みの苦しみを味わったね」とスペクターが語る。そして、赤い円柱ライトをシンボルとして使いながら、トイトブルクの森の戦いから十字軍、第三帝国、ドイツ赤軍派、東ドイツのシュタージ政権まで、さまざまな歴史的背景と要素を寄せ集めて、すべてのストーリラインを一つにまとめることにした。具体的な形になるまで何週間もかかった。そして、スペクターがこのコンセプトを伝えた途端、バンドの勢いに火がついた。



唯一ゲルマニアの人物像がスペクターにとって悩みの種だった。ビデオの中でゲルマン魂を具現化したこの戦士は、理想郷の夢と弾圧的な暴力の狭間で引き裂かれる。最初この戦士はブロンドで青い目だった。ケイト・ブランシェット的なステレオタイプのキャラクターだ。しかし、この役をアフリカ系ドイツ人女性に演じてもらうことで、スペクターの悩みは解消した。演じたのはベルリンで活躍する若手舞台女優ルビー・カミーで、彼女はこのビデオの影のスターとなった。

新聞の報道によると、このビデオの予算はドイツのトップアーティストの通常のビデオ製作費の5〜6倍だったらしい。しかし、スペクターのチームは映画のようなシナリオの作品を鉄の意志で4日間で撮影し、当初の制作費よりも少ない金額に抑えたのである。ラムシュタインのスタッフがトラバントに乗車して爆発するベルリンの壁の上を飛ぶシーンのように、当初予定されていたシーンのいくつかは進行の妨げとならないようにカットされた。


ラムシュタインのドラム、クリストフ・シュナイダー(Photo by JENS KOCH)

また、ビデオのプレミア公開の前にネットでティーザーを投稿するアイデアを出したのもスペクターだった。このティーザは強制収容所シーンを切り取った短いクリップだ。「僕にとって、アーティストがこんなふうに戦争被害者の苦悩を全面に出すということは、非常に大きなメッセージなんだ。そして最後に死亡記事のように『ドイチュラント』の文字がスクリーンに映し出される。これを誤解できる人なんていないと思うよ」と、スペクターが説明する。

この35秒のクリップに登場するベーシストのオリヴァー・リーデル、ヴォーカルのリンデマン、ギターのランダース、キーボードのロレンツが強制収容所の囚人服を着ていて、うち二人の服にはダビデの星が、一人にはホモセクシュアルを表すピンクの三角形がついている。彼らの首にはしめ縄が巻かれており、4人とも絞首刑の執行を待っている様子だ。そして最後に「ドイチュラント」の文字が映し出されて終わる。過去の残虐行為から切り離せず、罪悪感に絡め取られている現在のドイツを象徴的に描いているだろう。しかし、同時に危険をはらんだPR手法でもある。

Translated by Miki Nakayama

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