旧東ドイツ出身のロックバンド、ラムシュタインが祖国の「今」を歌う理由

ラムシュタインのヴォーカル、ティル・リンデマン(Photo by JENS KOCH)



ラムシュタインが描き出した「痛み」とは?

さらに、今作ではラムシュタインが過去にはっきりと打ち出さなかった題材も登場している。例えば、母国に対するアンビバレントな感情(先行シングルの「ドイチュラント(ドイツ)」)、東ドイツでの子供時代(驚くほどアップビートで、クイーンの「レディオ・ガガ」の社会主義版とも呼べる「ラディオ(ラジオ)」)などだ。今作はコンセプチュアルな作品であり、現在と過去の自叙伝であり、本物の痛みと架空の痛みである。



ヴォーカルのリンデマンが紡ぎ出すグリム童話的な言葉とミニマリストの歌詞は、明らかに現在のリアルを歌っている。ドイツの酒場で交わされるディベート、デモのスローガン、ニュースに対するコメントなどについて歌っているのだ。母国とアイデンティティ、パワハラ、消費者の態度。2011年の「マイン・ラント」のように、彼らの楽曲は移民、国家主義を扱ったりもしている。

新作のジャケットに描かれているのは1本のマッチだ。だが、この作品のテーマは炎ではない。社会に潜んでいる危険であり脅威なのだ。

リヒャルト・Z・クルスペ(ギター)はライターを持っている。写真撮影が終了し、小さなメイク室の開いた窓のそばで煙草を吸っている。口元のマルボロの先端が光り煙を吐き出すと、話し始めた。「今回のアルバムは俺たちを原点に引き戻してくれたと思う。楽曲の内容と音楽的に一周したってこと。終点だけど、次の段階の始まりでもある。今この瞬間に、俺が恋しいと思うのが、このアルバムのポジティヴな視点だね。希望の薄明かりというか。でも、もしかしたら、今はそういう希望はないのかもしれない。変化するかもしれない。世界は急激に変化するからね」と。

2018年の春、ラムシュタインはフランス南部のサン=レミ=ド=プロバンスまでドライブして、約30曲をレコーディングした。プロデューサーはオルセン・インヴォルティーニ。ベルリンの音楽シーンのレオナルド・ダ・ヴィンチと呼ばれるほど多才なインヴォルティーニは、これまでラムシュタインのコンサート音響を担当していた。レコーディング終了後、12月にロサンゼルスのリッチ・コスティがミックスダウンしたのだが上手く行かず、最終的にインヴォルティーニがミックスし直している。「ラムシュタインには炎、水、土の要素が十分にある。俺たちが演奏するとき、すべてがダイナミックで、爆発寸前で、とてもディープだ。でも今回、そこに空気と光の要素を足したかった。オルセンはこれをちゃんと入れ込んでくれたのさ」と、クルスペが説明する。

今回の苦労続きのアルバム制作過程で、初期段階からメンバーの注目を集めていた曲があった。これはミディアムスピードで、ダンサブルで、過去のラムシュタインらしさ全開の曲なのだが、奇妙で奥深い憂鬱さを併せ持っていた。デモではクルスペが「マザー!」という歌詞を歌っていた。これは曲作りの最中にクラスペが家族のことを考えていたせいだという。それが頭の中にこびりついていたのだろう。しかし、問題はラムシュタインが2001年に「ムター(母親)」という曲を既にリリースしていたことだった。

「どこかの時点で誰かが『マザー』を『ジャーマニー』と歌うことを思いついたんだ。ドイツの歌にするってね」と、ドラマーのクリストフ・シュナイダーが言う。彼は前回のコンサートで女物のカツラをかぶり、他のメンバーを犬に見立ててステージを歩き回ったことで注目を集めた。「もちろん、この言葉で行くことにしたら、いろいろと面倒なことになった。こんな曲を作ってもいいのか? 全体の歌詞が意味を成すようにするにはどうしたらいいのか? こういった問題を2〜3の単語で正当化するのは簡単じゃない。でもティルが何とか解決したよ」とシュナイダー。


ラムシュタインのギター、パウル・ランダース(Photo by JENS KOCH)

そしてリンデマンは「ジャーマニー」を歌詞に入れ、しゃがれたテノールで「お前の愛は呪いで救いだ。ドイツ、お前に俺の愛はやれない」と歌う。

そうして出来上がった曲が第一弾シングル「ドイチュラント」だ。2019年5月初旬の時点で、この曲のミュージック・ビデオはYouTubeだけで4500万回近く再生されている(現在は約6800万回)。Spotifyでの再生回数は2100万回だ。少なくともドイツ国内の日刊メディアはすべてこの曲を取り上げた。

Translated by Miki Nakayama

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