フルカワユタカの表現と考察「2005年前後にフェスにいた人たちをどう楽しませるのかが大事」

あの頃いた人たちがまた自分のライブを観に来るっていうのは否定すべきではない

―クリエイターとしての気持ちの変化は?

自信はないですけどね。今のほうが歌もギターも自分で納得できる。でも、今は若い子の音楽がヤバいんで。彼らの音楽には洋楽と区別がつかないぐらいミックスのクオリティが高いものもあるし、言葉の選び方からコードのはめ方まで、「これ、どこで学んでこうなったんだろう?」「最初からこれができちゃうの?」っていう子ばかり。そういう子たちがまだ新宿WARPを埋められてないとか、ブッキングの何番目だっていう話を聞いてびっくりしてますよ。そういう子たちと自分が戦うべきなのか考えると、変にソワソワしてきますね。ちょっと世代の近いthe telephonesとか9mmに対しては、「自分とは違うよさはあるけど負けてない」っていう気持ちがあるんだけど、世代が離れ過ぎちゃうとね。まあ、まだそういう子たちのライブを観たことがないから、「ライブはしょうもないなんだろうな、そうであってほしい、若いんだから」って思うようにしてますよ(笑)。

―あはは!

こないだ、渋谷のディスクユニオンに用事があって行ったんですけど、そのとき店内でMy Hair is Badがかかってたんですよ。でも、俺は彼らのことを全然知らなくて。スタッフが言うには彼らの代名詞的な楽曲とは全然違うらしいんですけど、そのとき流れてた曲は文系ラップで、歌詞の世界感とかトラックがすごくよくて、有名な曲かどうかはわからないけどいい曲だったんですよ。

―ああ、それは新作『boys』に入ってる「ホームタウン」ですね。あれは確かにいい曲です。

あのクオリティにはびっくりしました。だから、「ここと勝負するのか」って考えると不可能だと思っちゃう。イギリスかどこかの研究で、新しい音楽を掘る熱っていうのは27、8歳ぐらいで冷めちゃうんですって。だから、普通の人はその年齢までに得た知識と感性だけでよくて、そのあと新しい音楽が本能的に必要じゃなくなるらしいけど、職業でDJやミュージシャンをやってる人は頑張って掘り続けなくちゃいけない。すごくしんどい戦いですよね。僕の周りには若づくりした音を一生懸命探している人もいるけど、そういうのって昔、自分がJ-POPを聴いてたときに急に小室サウンドみたいになってる大御所を見て吐き気がするほど寒いと感じたことを思い出しちゃって。だから、答えはまだ見えてないけど、自分が好きなことをやるのに尽きるのかなって。

―今は安定してるし、『epoch』みたいにいい曲が揃った作品ができたけど、この先どうやって歩んでいくかというところまでは見えてない。

でも、ひとつ確かなことは……これを言うと否定する人が周りにけっこう多いんですけど、これまで一緒に音楽を聴いてきた世代、感性ができあがってる世代、つまり2005年前後にフェスにいた人たちをどう楽しませるかっていうのが大事なんじゃないのかなって。あの頃、みんなの琴線に触れた歌詞とメロディっていうのは今も必ず存在していて、そういう人たちに向けたメッセージがある歌詞……今作でいうと「クジャクとドラゴン」みたいな曲は今も必要だし、あの頃いた人たちがまた自分のライブを観に来るっていうのは否定すべきではないんじゃないかと思うんですよね。



―僕もそう思います。

でも、それはあまりクリエイティブなことではない。だからみんな、絶対あの頃の人たちを呼び戻すための作業をしてるクセにしてないフリをするんですよ。

―ふふふ。

「そういうことをやってると尻すぼみになるよ」ってレコ屋の人からも言われるし、それが正しいのはわかるけど、必ずしもそう言い切れないところもあるから僕はそれを否定しないです。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE