BiSHサウンド生みの親、松隈ケンタが語る「進化」と「福岡移住」の意味

「綺麗ではない音」の作り方

─ミックスにもかなり力を入れたそうですね。作曲のアプローチ以外の部分でも、様々なアイデアが施されているのでしょうか?

松隈:ミックスで言うと、激しい曲は80年代のインダストリアルなバンドだったり、マリリン・マンソンや、スマッシング・パンプキンズあたりを参考にしています。ああいう綺麗ではない音ってミキサーやエンジニアが作る音ではないんですよね。ミキサーやエンジニアというのはノイズを消したり、聴きやすくするのが仕事なので。例えて言うなら、清掃業者の人に「いい感じに散らかしたまま掃除して」って言うみたいなもので。

─なるほど(笑)。

松隈:そういうサウンドはエンジニアではなくて、プロデューサー、アレンジャーや作曲家といったアーティスト側の人間が作っているから、一般的なJ-POPの枠組みではあまり生まれないものだと思うんですね。なので今回は僕がミックスまで全部やりました。ぐちゃぐちゃに散らかして、歌までひっくるめた2ミックスにディストーションをぶっこんで5分ぐらいで終わらせている。エンジニアの沖くん(沖 悠央)が1日かけてやったミックスを「全然違う! やり直す!」って(笑)。だから、ある意味常識はずれと言うか。


取材は東京のSCRAMBLESオフィスで行われた。所属クリエイターが一つの場所に集まって制作をする。(Photo by Takuro Ueno)

─5分で終わるからといって誰にでもできることではないわけですよね。

松隈:センス一発勝負ですね。衝動的な絵を描く人のように、かっこよくなかったら売れないし、かっこいいと言わせるしかない。どちらかと言うと僕はセンス系ではなく、技術系プロデューサーとして見られていると思うんです。だから冒険ではありました。ただ、そこまでしないと、あの雰囲気は出ないなと思ったので。渡辺くんは昔からそういうサウンドをBiSHでやりたがっていて。動画を見せてきて、こういう曲がやりたいって言われていたんですけど、80年代のファッショナブルな外国人アーティストがやるからかっこいいわけで。2010年代に僕やBiSHがそれをやる画が今まで全く浮かばなかった。やっとそこに挑戦できたのかなと思いました。

─BiSHのメンバーにはヴォーカルとしてどういうことを求めたんでしょう?

松隈:今回は逆に、ヴォーカルに何かを求めてはなかったのかもしれないですね。これまでは「My landscape」のアイナ(・ジ・エンド)みたいに、この子を押し出したいという部分が曲ごとにあって。でも今は放っておいても音楽の中で踊ってくれるし、暴れてくれるので、そういう意味ではこっちがコントロールする感覚は全くなかったですね。他のグループもいま録ってますけど、昔を思い返すと、BiSHは上手くなっているんでしょうね。かと言って、別に飽き飽きする感じでもなく、いつも通りだなという感じもなく。



─へええ。

松隈:他のグループだと、ここに誰を使おうかな、この子もいいし、あの子もいいしって悩むんですよ。BiSHの場合はメンバー内でも役割分担が自分たちで分かっていて。そういうところがバンドっぽいのかもしれないですね。チッチはここ歌わなきゃダメだって言って集中する。ハシヤスメは僕の中では4人目の武器になるなという成長を見せましたし。リンリンとモモコがスーパーサブ的な逆に貴重な位置にいる。だから音楽的に作っていて楽しかったですね。

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