テイラー・スウィフトを憤慨させた、米エンタメ界の敏腕スクーター・ブラウンの野望

4) インハウスでのビデオ製作

ビッグ・マシン、アトラス・パブリッシングとSBプロジェクツに加えて、イサカ・ファミリーはアーティストのマネージメントハウスであるサンドボックス・エンターテイメント(ケイシー・マスグレイヴス所属)とパートナー契約をしており、さらに音楽技術の開発に特化した投資ファンドで前BMG社長ザック・カッツが率いるレイズド・イン・スペースとも提携している。しかし、最も興味深い投資資金は音楽以外から投入されるかもしれない。前マーヴェルの責任者デヴィッド・マイセルが設立した映画とテレビ番組の製作スタートアップ企業ミソス・スタジオが最有力だ。

近年、音楽をテーマにした動画コンテンツが成長著しいビジネスとなっている。オスカーを受賞した『ボヘミアン・ラプソディ』や『アリー/スター誕生』、劇場興行収入的に大ヒットした『グレイテスト・ショーマンシップ』がいい例だろう。この3作品に共通する点は、音楽の著作権を扱う主要企業が製作に携わっていないことだ。つまり、製作に関わったのは、『ボヘミアン・ラブソディ』は20世紀フォックス、レガシーなど、『アリー/スター誕生』はワーナー・ブラウザーズ・ピクチャーズとMGM,ライヴ・ネーション・プロダクションなど、『グレイテスト・ショーマンシップ』はローレンス・マーク、チャーニン、TSGだ。また、テイラー・スウィフトは同じトレンドの異なる例を提供している。彼女の公式ライブ映画の『テイラー・スウィフト:レピュテーション・スタジアム・ツアー』はNetflixに売却された。その後、Netflixはビヨンセやブルース・スプリングスティーンのコンサート映画も公開している。

イサカ・ファミリーのマネージメント会社に所属するスーパースターたちを組み合わせ、ビッグ・マシンにサウンドトラックの製作と管理を任せ、アトラス・ミュージック・パブリッシング所属のアーティストの楽曲を使い、ミソスのテレビ番組や映画製作の能力を活用することで、ブラウンは次回のアカデミー賞にノミネートされる音楽映画や大ヒットするコンサート映画を作ることができるのではないか? それもあらゆる権利がイサカ・ファミリーの敷地の外には一切出ない状態で。

5) 買収企業を増やしてエンターテイメント・ビジネスを網羅する

現在の音楽業界は吸収合併が頻繁に行われている。イサカがビッグ・マシンを3億ドルで買うとは言え、最近ではソニーがEMIミュージック・パブリッシングの所有権を23億ドル(約2491億円)で買ったり、Merck Mercuriadisのヒプノシスが過去13ヵ月間でソングライティングと出版の諸権利のために4億3300万ドル(約469億円)を費やしている。

イサカの一番の後ろ盾がカーライル・グループで、同グループの金融ポートフォリオには2220億ドルの運用資産が含まれ、これまで所有した企業にはレンタカーの巨人Hertz、ファーストフードとドリンクのチェーン店ダンキン・ドーナツなどがある。特に興味深いものが、2018年以来、最先端の洋服ブランド、シュプリームの株を50%所有している。このブランドはアーティストたちと直接服作りをし、限定数の商品を販売してきたことで有名で、イサカ・ホールディングスが得意とする分野にマッチしたブランドと言える。

2017年以降、カーライル・グループのイサカへの投資は大きくはなかったが、ビッグ・マシン買収に関与したこともあり、現在は投資額を増やしている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、この動きによってイサカの企業価値が8億ドルを上回ったということだ。

そうは言っても、イサカの筆頭株主は相変わらずスクター・ブラウンだ。非常に現代的な音楽ビジネスの総合商社とも言えるブラウンの会社は、録音された音楽、スーパースターのアーティスト・マネージメント、音楽出版、映画製作など、エンターテイメントの全方向に伸びたインフラを作り上げようとしている。さらにカーライル・グループの潤沢な資金力という後ろ盾もあり、一方で目まぐるしい音楽関連権利市場が拡大していることを踏まえると、今後さらなる成長の機会が持ち上がったときにブラウンが尻込みするとは思えない。

Translated by Miki Nakayama

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