テイラー・スウィフトを憤慨させた、米エンタメ界の敏腕スクーター・ブラウンの野望

ビッグ・マシン・レーベル・グループ(とテイラー・スウィフトの6枚のアルバム)をイサカが買収すると、6年前に突然ワーナー・ミュージック・グループが4億8700万ポンド(約661億円)でパーロフォンを買収して以来の音楽業界最大の買収となるはずだ。その結果、イサカ・ホールディングスは自動的に地球上で最も大きなインディペンデント音楽企業になる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、昨年1億ドル(約108億円)以上を売り上げ、1年間のEBITDA(金利支払い前、税金支払い前、無形と有形の固定資産の償却費控除前の利益)が4000万ドル(約43億円)を超えるビッグ・マシンは一つのレーベルとなる予定だ。

私が最も関心を寄せる点は、エンターテイメント業界の総合企業としてのイサカ・ホールディングスが持つポテンシャルだ。彼らは成功している下記の3社を基盤として、録音された音楽以外の事業も行っている。

まずは、SBプロジェクツでのマネージメント運営がある。6月30日に交付されたビッグ・マシンの買収を伝えるプレスリリース内で、SBプロジェクツがイサカ・ホールディングスの子会社になったことをひっそりと伝えている。ブラウン所有のSBプロジェクツのクライアントには、アリアナ・グランデ、ジャスティン・ビーバー、J. バルヴィン、デミ・ロヴァート、トリ・ケリー、ザック・ブラウン・バンド、ダン+シェイなどがいる(また、ブラウンはカニエ・ウェストの公式なマネージャーというよりも公式な「友人」だ)。

2つ目がニューヨーク拠点の音楽出版社アトラスだ。これは今年2月にブラウンとイサカが買収した会社で、エディ・ヴァン・ヘイレン、アレックス・ヴァン・ヘイレン、グラミー賞に6回ノミネートされたブランデー・カーライルなどのソングライターの代理人を務めている。

そして、3つ目がビッグ・マシン内のレコード・レーベルだ。このレーベルはスウィフトの音楽カタログだけでなく、フロリダ・ジョージア・ライン、トーマス・レット、ラスカル・フラッツ、レディ・アンテベラム、リーバ・マッキンタイア、シェリル・クロウなども契約している。

下記に、私が考えるこれから数ヵ月間または数年間で、ブラウンが展開するであろうイサカの戦略をいくつか列記してみる。

1) アトラス・パブリッシングからBSプロジェクツとビッグ・マシンにヒット曲が投入される

アトラスはニューヨーク本社以外にも、ロサンゼルスとナッシュビルにオフィスを構えており、これまでドレイク、デミ・ロヴァート、ザ・バンド・ペリー、マドンナ、エド・シーラン、ジョン・レジェンドが演奏した楽曲の所有と管理を行っている。アトラスのイサカへの吸収合併を報じたプレスリリースに、ブラウンが言った言葉として「彼(アトラスのリチャード・スタンフ)や彼のチームと一緒に仕事することで、我々は最もクリエイティヴなライターたちと直接的なつながりを持つことになり、出版のプロセスを簡素化してもっと個人的なものにできるだろう」が記載されていた。分かりにくので説明すると、「当社のアーティストとアトラス所属のライターを結びつけることができれば、アーティスティック面での充実度が増し、賢く利益をあげられるだろう」という意味だ。

これはアトラス所属のインハウス・ライター以外にも適用される。アリアナ・グランデ最大のヒット曲「7 Rings」には、ロジャース&ハマースタインのクラシック曲「マイ・フェイヴァリット・シングス」の歌詞が数多く使われている。そのため、グランデのこのスマッシュヒット曲によって生み出された出版印税の9割はロジャース&ハマースタインの著作権所有者に支払われるのだ。現在のブラウンは、SBプロジェクツのクライアントであるアーティストの将来を考えて、「マイ・フェイヴァリット・シングス」のような不朽の名曲をアトラスの音楽カタログに加える機会を探っているかもしれない。つまり「7Rings」と同じ轍を踏まない手立てを考えているということだ。

Translated by Miki Nakayama

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