バンド結成57年目、ローリング・ストーンズのマサチューセッツ公演ライブレポート

アメリカ国家「星条旗」のドラマチックなイントロを披露した直後、ストーンズは「ストリート・ファイティング・マン」でライブを始めた。この曲はキース・リチャーズが最近ローリングストーン誌に「これ以外のオープニング曲はない」と語ってくれた曲だ。リチャーズがそう言った理由はすぐにわかった。黄色い革のジャケットを着たジャガーが燃え盛る炎のような勢いで踊りながらステージに登場し、キース・リチャーズのテレキャスターから奏でられるパワフルなリフに合わせて身をくねらせていたのだから。そして、楽しさが爆発する「ダイスをころがせ」を歌いながらBステージに大股で歩いて行った。彼の熱いコマンドは「氷のように」で新たなレベルへと到達した。毎晩ファンがオンライン投票で選ぶレア曲でこの夜はこの曲が選ばれたのである。リチャーズがホローボディのギブソンを奏でて、ロニー・ウッドがブルーグラス風のトワンギーなソロを弾くと、ジャガーの踊りは激しさを増し、「She’s so goddamn cold!」と叫んだあとでステージにつばを吐いた。

ここからエネルギッシュさは増すばかりで、ストーンズはここでライブの前座を務めたゲイリー・クラーク・ジュニアをステージに呼び込んで、「ライド・エム・オン・ダウン」を披露した。この曲は2016年リリースの『ブルー&ロンサム』に収録したエディー・テイラーのカバー曲だ。この日のコンサート前にリチャーズはクラークと一緒に楽屋で撮った写真を投稿していた。クラークとストーンズの親密さは誰の目にも明らかで、若いクラークが味わい深いギタープレイを突風のように弾き出すと、ジャガーは歯を見せてにっこり笑ってから、お得意の荒々しいハーモニカ・ソロへと移ったのである。次のサプライズが登場したのは、バンドがBステージに移動したときだった。これはジャガーが言うところの「フォーク仕立て」コーナーで、アコースティックギターに持ち替えた彼らが1965年の「プレイ・ウィズ・ファイア」(これはロニー・ウッドがやろうとしつこく言い続けた曲)と「デッド・フラワーズ」を演奏し、リチャーズはマイクに近づいてバックコーラスも披露した。この様子に1972年のツアーを思い出したが、リチャーズとジャガーのボーカルのブレンドは聞いていてゾワゾワと鳥肌が立つほど素晴らしいものだった。

リチャーズが自叙伝「Life(原題)」で書いているが、ローリング・ストーンズのライブの醍醐味は、バンドが演奏しているそのままの音を聞くことにある。バックアップ・トラックも誤魔化しも一切ないのだ。特に生のサウンドをはっきりと感じたのが「ミッドナイト・ランブラー」で、この最高のブルース曲のインスト部分でジャガーが観客を熱狂に渦に巻き込んでいる最中、不気味なセリフ部分(「Well, you heard about the Boston……」)が始まる直前に「生サウンド」を実感した。実は、ジャガーがセリフを言おうとしたその瞬間、リチャーズが唐突にセリフ部分をスキップして、お馴染みの速弾きリフを弾き始めたのだ。ステージの巨大スクリーンには一瞬凍りついたジャガーの表情が映し出され、すぐさま変な顔でリチャーズを見た。すると、リチャーズは自分のミスに気づいて演奏をやめ、ロニー・ウッドの肩に手を置いて笑いだした。これは熟練のストーンズが若いガレージバンドのように見えた可愛い瞬間だった。

Translated by Miki Nakayama

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE