鈴木涼美が感じる、男と女をめぐる違和感の正体

「私の戦い方がもしあるとしたら、彼らの滑稽さを私の作品として昇華したい」

プライベートはともかく、夜の仕事では「男のダメな部分」を散々見てきた彼女。『女がそんなことで喜ぶと思うなよ』の中でも触れていたが、昨今はフェミニズム、MeToo運動について違和感を覚えることが多いという。

「私は男性をいろいろ見てきたけど、今のフェミニズムやMeTooやKuToo運動が前提としている『強くて怖くて、世の中の旨みを吸っていて、女を搾取し潰す』みたいな力、本当に男が持っているのかなって。例えばAV業界にいる男は、秘書が巨乳を押し付けてきたり、ナースが下の口にお注射とか言ってきたりするようなことを、本気で妄想している馬鹿な人たちなんですよ(笑)。その人たちと、そんな本気でファイティングポーズを取る必要、本当にあるのか疑問に感じてしまう。きっと、男性に対して怒っているフェミニストよりも、全く男性に期待していない私の方が冷たいのかもしれない。彼女たちが想定されている男像と、私の知っている情けない男たちの実像がかけ離れすぎてて、ちょっと滑稽なんですよね。コンデンスミルクと卵の白身を使って、いかに精子っぽく見えるかどうか試行錯誤をしている男たちが、女性にとって脅威とはどうしても思えない。もちろん、どの社会でも同じように悪い奴は一部いるんですけど、それを仮想敵にしちゃうと、その人たちは倒せても、もっと大きな力や社会のシステムみたいなところが見落とされがちじゃないかなって。私の戦い方がもしあるとしたら、彼らの滑稽さを私の作品として昇華したいんですよね」

そんな彼女が今、テーマに据えているのはズバリ女性だという。

「今、女の子を否定するのが難しくなっているじゃないですか。男性が『こういう女は嫌いだ』みたいなことを口にしたら、政治家なら一発退場ですよね。なので、何を言ってもあまり炎上しない私が代わりに言ってあげようと思って(笑)。じゃないと私の中でバランスが取れないというか、フェアじゃないなって感じがしてきたんです。去年はいろんな男が吊るし上げられ、退場させられたじゃないですか。でも、クソ女もたくさんいるので、それをちゃんと吊るし上げないとなって。自分で自分の首を絞めるような作業ですが、粛々とやっているところです(笑)」


鈴木涼美
1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。最新刊は『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 〜 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』(集英社)。
https://twitter.com/Suzumixxx


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