ジミ・ヘンドリックスによる伝説の国歌演奏、本人語った知られざるエピソード

ディック・カベットのトーク番組に出演したジミ・ヘンドリックス

音楽史に残る名シーン、ジミ・ヘンドリックスによるウッドストックでのアメリカ国歌「星条旗」演奏。その伝説のステージから1ヶ月後、本人がトーク番組で演奏への思いなどを語っていた。実は、「総勢50万人」といわれた観客はその演奏を観ていなかった? 演奏前日は8分しか寝てなかった? など、当時のトーク番組を回想する。

アメリカ国歌「星条旗」の情熱的な演奏でウッドストックの幕を閉じてから1ヵ月、ジミ・ヘンドリックスはトーク番組「ディック・カベット・ショー」に登場し、この曲を再考した理由を説明した。ウッドストックでのアメリカ国家演奏は、現在ではヘンドリクスのキャリアを代表する瞬間と考えられている。しかし、爆発する爆弾の音に似せたフィードバック・ノイズを使ったヘンドリックス版国歌は、彼がベトナム戦争への抗議として行ったと捉えられ、当時のアメリカ人の中には不快感を表す者もいた。

前夜に8分しか寝ていないことを認めた直後、「よくわからないよ」と疲労困憊のヘンドリックスがカベットに語った。「俺はアメリカ人だから国家を演奏しただけさ。学校でも歌わされたし、過去を思い出したんだよ」。

カベットはヘンドリックスがアメリカ軍の第101空挺師団に所属していたことを紹介し、視聴者に向けて彼に嫌がらせの手紙を送りつける前にこの事実を考えるべきだと述べた。そして、「君が国歌についてや、国歌を斬新なアレンジで演奏したことについて話すと、あっという間に嫌がらせの手紙が届く」と、カベットが続けた。

すると「あれは斬新なアレンジじゃない!」と、ヘンドリックスはカベットを遮り、「俺は美しいと思ったよ」と続けた。

ウッドストックへの参加は、その夏の初めにジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスを解散して、ヘンドリックスにとって大きなターニングポイントとなった時期と重なった。ウッドストックのステージに登場したのは、結成したばかりのジプシー・サン・アンド・レインボウズ(別名バンド・オブ・ジプシー)で、メンバーはエクスペリエンスのドラマーだったミッチ・ミッチェル、ベーシストのビリー・コックス、ギタリストのラリー・リー、パーカッショニストのジュマ・サルタンとジェリー・ヴェレツだった。

伝説となったこのパフォーマンスの皮肉な点は、この演奏を実際に見た人が僅かしかないことだろう。彼が登場する予定時間には、ニューヨーク州北部の会場となった農場にたくさんのファンが押しかけていた。しかし、ウッドストックのトリを務めたいと思っていたヘンドリクスは、自分の出番を遅らせ続けた。その結果、月曜早朝に観客がほとんどいないステージで演奏することになった。当初「総勢50万人」といわれた観客のほとんどが会場を後にし、そこには、ほんの一握りの熱烈なファンがゴミの海と化した会場にぽつんと座っていたのである。

カベットはかなりの年月を経たのち、ヘンドリックスとの会話を思い出してこんなふうに語っている。「アメリカ国歌は、名だたる国々の国歌の中でも、最も陰気で本当に歌いづらい哀歌だから、そんな国歌をちゃんとした音楽に作り変えてくれたヘンドリックスに国民は勲章を与えるべきだと、あのとき言えば良かったと思うよ」と。

Translated by Miki Nakayama

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