LiSAが「紅蓮華」で示した使命とロックシンガーとしての矜持

「物語」を与えていくプロセス

―それにしても、「紅蓮華」ってすごい響きですよね。テーマはなんだったんでしょう。

これはあくまでもわかりやすく伝えるためのたとえ話なんですけど、ピカソの絵を見たときに、ピカソはもうこの世にいないのに、こんなにもたくさんの絵が美術館に飾られていて、色んな人がいろんなことを考えながら彼の絵を見ているんだなと思ったんです。彼は生前、いろんな人に否定されて、様々なものを背負って、それでも描き続けて、やっと今、花が咲いてる。

―そうですね。

同じように、今はまだ咲き誇っていなくても、自分の身に起きた過去の悲しいことや辛いことは、大事な物を生み出すために必要なものなんだ、ボロボロに傷ついた人にしか咲かせられない花があるんだって思ったんです。紅蓮というのは蓮を指しているんですけど、蓮は土から直接太陽に向かって咲くわけではなくて、土から水を通らなければいけなくて、すごく時間をかけて伸びた末にやっと太陽に向かって花を咲かすことができるんです。

―なるほど。

あと、紅蓮は紅蓮地獄という地獄のひとつを指してもいて、そこでは寒さで凍えた人の肌が剥がれていって蓮のような花が咲く。私の歌を聴いてくれてる人とか、私自身もそうなんですけど、そうやって悲しいことや苦しい思いをしながら頑張っている人にしか咲かせられない花があるんだろうな、そういう人たちの歌になったらいいなと思って作りました。

―うまい具合に「鬼滅の刃」のストーリーに沿っているわけですね。

そうですね(笑)。

―それってすごくないですか?

うん、すごいですね。あはは! そういうキーワードを見つけるのが好きなんです。ライブに関してもそうで、こないだ横浜アリーナで「LiVE is Smile Always~364+JOKER~」というタイトルのライブをやったんですけど、それは365日のうちの1日、自分が生まれた日がなかったら世界がおかしくなってしまう、つまり君が生まれた日、君自身はこの世界に必要な存在なんだよっていうメッセージなんです。トランプは4種の絵柄の数字を1から13まで、全部足すと364になるんですけど。

―おお、それは知らなかった。

ジョーカーはハートにもダイヤにもスペードにもクローバーにも属していないし、「自分は何者なんだろう?」って疑問に思うんですけど、「君は何者にでもなれるジョーカーなんだよ」って気付くことによって365日が完成するというお話なんです。そういうテーマを作ってお話を構築していくっていう。物事を何かに置き換える大喜利みたいな感覚です(笑)。

―簡単に言いますけど(笑)。そのテーマだけでひとつの大きな物語になるじゃないですか。

そうですね。そういうふうにめちゃめちゃ凝ってるお話もあるし、「LiVE is Smile Always~メガスピーカー~」っていうライブは「目がスピーカー」っていう意味だったり。そういうギャグバージョンもあります(笑)。

―シリアスなものからコミカルなものまで(笑)。作詞の話に戻りますが、LiSAさんは詞をアニメのストーリーに寄せるのと、なるべくそこから離れつつも物語に寄り添うのと、どっちが好きですか?

できるだけ離れるように意識してますけど、どちらの気持ちもわかるんですよ。話に寄り添いすぎていると、どうしてもキャラクターソングになってしまうので、そうなるとそのキャラクターからのメッセージとしてしか捉えられなくなるんですよね。それだと作品を観ている人にしか音楽が届かなくなっていくので、自分が歌っている意味がなくなってしまうというか、それならキャラクターが歌ってるほうがお客さんはうれしい。

―確かに。

じゃあ、LiSAという人が歌う意味を考えると、作品を観てる人にも、そうじゃない人にも届くように意識して作るのが自分の役割なんだろうなと思っていて。あまりにも作品からかけ離れたことを歌っていると、作品を観ている側からすると「なんでこの人が歌ってるんだろう?」っていう気持ちになる。

―そうですよね。

作品のファン的にはすごく悲しくなる。「きっといろんな事情があってこの人が歌ってるんだろうな」みたいな(笑)。自分の好きなものを大切にしてくれない人には関わらないで欲しいって思いますよね。


LiSA(Courtesy of SACRA MUSIC)

―わかります。

だから、こんなことを言うのはわがままだし、すごく難しいことでもあるんですけど、どちらにも寄り添えるような音楽づくりができたらいいなと思ってます。私はシンガーですけど、「Angel Beats!」で作品に懸けるたくさんの人の想いを知った以上、その作品を大事にしないっていうことができないんです。しかも、私は以前、アニプレックスっていうアニメを作っている会社に所属していて、そこにいる人たちがどれだけの想いをもって作品を人に届けるようとしているのかっていうのを間近で見てきたので、そういう人たちのことを無視して、「LiSAはこういうシンガーなんで」とは言えないんです。

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