井浦新が語る、自分を作り上げている「インプットの時間」

さて、そんな井浦が主役を務める映画『こはく』が公開される。幼い頃に別れた父の会社を受け継ぎ、経営者として周囲に認められるようになった亮太。しかし、父と同じように離婚し子供たちと別れた経験が、現在の妻との生活にも時々小さな影を落とすことがある。

そんなある日、兄の章一が父の姿を街で見かけたという。兄とともに父を探し回るうち、これまで考えてこなかった父や、老いていく母の人生に想いを馳せる亮太。海の見える坂道が印象的な、佐世保市を舞台にしたこの物語は、「家族」とは何かを改めて考えさせる。原案・監督は『ゆらり』の横尾初喜。自身の幼少期の体験を基にした半自伝的なストーリーであり、横尾の妻で女優の遠藤久美子が亮太の妻役を演じているのも話題だ。

「本人を目の前に、本人の妻と夫婦生活を演じるわけですから、ややこしいなあと思いました(笑)」

そう言って、苦笑いする井浦。しかし、そんなパーソナルな物語だからこそ繊細かつ丁寧な芝居が要求されるこの役は、彼にとって非常にやり甲斐のあるものだったようだ。

「兄弟が父親を探す旅に出る、というのが物語の軸であり、クライマックスで訪れる『父親との再会』に向けて、どうやって気持ちを持っていくのか、その過程をどれだけ丁寧に描けるかが、この映画の成否を決めると思ったんです。なので、兄役の大橋彰さん(アキラ100%)と綿密に話し合いながら進んでいきました。だからこそ、あのドキュメンタリーのような名シーンが作れたのだと思います」

「お盆芸」で一世を風靡したお笑い芸人、アキラ100%がその芸風を完全封印し、無職で実家暮らしの風変わりな兄・章一を熱演。父を憎むことでしか自分を保つことが出来なかった彼が、父と再会し感情を爆発させるクライマックスは観る者の心を鷲掴みにする。そして、そんな兄の姿を見た亮太は、無意識のうちに固く閉ざしたままだった自分の「本当の感情」に、初めて気づくのだ。


Photo = Mitsuru Nishimura

「そこを感じ取ってもらえたのはうれしいです。きっと誰しもが亮太や章一のように、何かしらの欠乏感や孤独感を多少なりとも抱えながら、それとうまく向き合えずに生きていると思うんです。そんな自分の気持ちに気付いたり、自分の家族と改めて向き合ったりするキッカケに、この映画がなったのなら本望です」

  今年で45歳を迎える井浦新。「2児の父」として家族と暮らす、これからの彼の日々もきっと「役者人生」の大切なインスピレーション源となることだろう。
 

こはく
原案・監督:横尾初喜
出演:井浦新、大橋彰(アキラ100%)
遠藤久美子、嶋田久作、塩田みう 他
長崎先行公開中、7月6日よりユーロスペース、シネマート新宿ほか全国順次公開


井浦新
1974年9月15日生まれ、東京都出身。98年、主演映画『ワンダフルライフ』で俳優デビュー。以降、数々の作品に出演。近年の主な出演作には、映画『光』『ニワトリ★スター』『菊とギロチン』『止められるか、俺たちを』、ドラマ『アンナチュラル』『健康で文化的な最低限度の生活』がある。2019年は、映画『赤い雪 Red Snow』『嵐電』に出演。現在、連続テレビ小説『なつぞら』に出演中。公開待機作に映画『宮本から君へ』(秋予定)がある。


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Photo = Mitsuru Nishimura Styling = Kentaro Ueno Hair and Make-up = Natsuko Hori

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