トム・ヨークのソロ2作目『Tomorrow’s Modern Boxes』を全曲解説で振り返る

1.「A Brain in a Bottle」
ヘッドホンから流れる第一音が鼓膜を刺激した瞬間、本作がレディオヘッドの作品よりも、トムのソロ作とアトムス・フォー・ピースの作品に近い内容であることがはっきりする。以降40分間、アコースティックギターは一切登場せず、トムのヴォーカルとラップトップから放たれるサウンドが空間を支配する。BitTorentを介して突如発表されたトムの新作には、『ジ・イレイザー』や『ザ・キング・オブ・リムス』、そしてアトムス・フォー・ピースの作品に至るまで、彼が過去10年間で追求してきたサウンドが反映されている一方で、新鮮なトリックの数々や秀逸な楽曲群は、レディオヘッドの次作を心待ちにしているファンを興奮させることだろう(編注:レディオヘッドは2016年に現時点での最新作『ア・ムーン・シェイプト・プール』を発表している)。

「A Brain in a Bottle」の冒頭から1分45秒の時点で登場する、レーザーガンの如く激しく交錯する電子音は、『Amok』の最後から2曲目に配されたドラマチックな「Reverse Running」を彷彿とさせる。50年代のSF映画のようなパラノイア感は楽曲のタイトルにも表れており、まるでマッド・サイエンティストの手によってフランケンシュタインと化したトムが、奇妙なサウンドエフェクトの数々でダブの交響曲を奏でているかのようだ。




2.「Guess Again!」
PolyFaunaアプリを先月アップデートした人はみな、歪んだビートと『ザ・キング・オブ・リムス』に収録された「Codex」を思わせる不可思議でメランコリックなピアノがリードする、この計算され尽くしたトラックに聞き覚えがあるだろう(実は本作に収録されている全楽曲が、部分的にPolyFaunaアプリで使用されている)。アプリで使われていたバージョンにおけるアブストラクトなエコーをトムのファルセットに置き換えた「Guess Again!」では、トムのボーカルとレディオヘッド譲りの荒涼とした世界観を描いた歌詞が登場する。「野犬たちの遠吠えが聞こえる カーテンのすぐ後ろから」片方の目で背後に迫る危険を察知するかのように、トムはそう歌い上げる。「迫り来るその生物たち 僕は子供たちを抱きかかえる / 僕は戦い続ける 死ぬことが許されない暗闇の中で」トムが「推測し直せ!」と嘲るように歌う直前にわずかに登場するストリングスは、本作において最もオーガニックな瞬間のひとつだ。




3.「Interference」
本作において最もメロウなトラック。「僕たちは互いの目を見つめ合う まるでジャッカルやオオガラスのように / 大地が大きく口を開け 瞬時に僕たちを飲み込んでしまうかもしれない」瞑想にふけるような『ジ・イレイザー』の曲を思わせる本トラックで、トムは肩を震わせながら優しく囁きかけてみせる。トムのソロ作の中でも屈指の「Guess Again!」と「The Mother Lode」に挟まれたこの曲は、アルバムにおいて小休止の役割を果たしている。



4.「The Mother Lode」
『Tomorrow’s〜』の前半におけるハイライトとなる6分超のこの曲は、『Amok』のせわしない「Stuck Together Pieces」と、トムのソロ初期のメロウなシングル「The Hollow Earth」、そして『ザ・キング・オブ・リムス』の冒頭を飾る「Bloom」の中間をいくようなトラックだ。冒頭から3分の時点で登場するピクセル化したかのようなストリングスの波は、7年前の『イン・レンボウズ』以降トムが生み出してきたハーモニーの中でも有数の美しさを誇る。21世紀の幕開けとともに放たれた『キッドA』以降続くトム流のエレクトロニクスをふんだんに用いながらも、「The Mother Lorde」にはギターの欠落を補って余る魅力がある。



Translated by Masaaki Yoshida

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