アフロビートが21世紀にもたらした「変革」とは? シェウン・クティを軸に歴史を辿る

現代ジャズにアフロビートがもたらしたもの

かくしてアフロビートの新たな動きに注目が高まるなか、音楽的にとりわけ斬新なアプローチを聴かせたのはジャズ・ミュージシャンだった。まず注目すべきは、ロイ・ハーグローヴをリスペクトする新世代のトランぺッターだろう。2019年上半期のR&B人気作であるアリ・レノックス『Shea Butter Baby』にも参加したセオ・クロッカーは、自身の『AfroPhysicist』でロイをゲストに迎えてアフロビート「Roy Allan」を演奏している。

インディ時代からアフリカの要素を盛り込んできた黒田卓也は、その成果をブルーノートからのメジャーデビュー作『Rising Son』(2014年)の「Afro Blues」で結実させている。ディアンジェロの現行バンド=ザ・ヴァンガードのメンバーでもあるキーヨン・ハロルドも、自身のアルバム『The Musician』(2017年)でアフロビートを取り入れていた。




次はドラマーについて。ロバート・グラスパーからディアンジェロ、宇多田ヒカルまで携わってきたクリス・デイヴは、ライブで必ずと言っていいほどアフロビートをプレイしてきた。彼は自身のリーダー作でも『Mixtape』(2013年)収録の「Africa...I Freak Her」や、『Chris Dave And The Drumhedz』(2018年)収録の「Blackhole」でアフロビートを採用している。

ホセ・ジェイムスとの共演で知られるネイト・スミスも、アフロビートをプレイし続けるドラマーの一人。黒田卓也「Afro Blues」でも叩いているし、自身のアルバム『Pocket Change』(2018年)ではトニー・アレンに捧げる「Ghost Thud (For Mr Allen)」をプレイしている(これは余談だが、ネイトは先ほども名前の挙がったブリタニー・ハワードのソロ新作『Jamie』にも起用されており、今後ますます注目を集めそうだ)。


クリス・デイヴがフェラの音源に合わせてドラムを叩いた映像。


ヴルフペックのメンバーによるサイド・プロジェクト、The Fearless Flyersに参加したネイト・スミスがアフロビートをプレイ。

J・ディラのよれたビートを生演奏でトレースしつつ、それを即興演奏に組み込み発展させてきたジャズ・ドラマーの演奏は、2010年代の音楽シーンを大きく塗り替えてきた。そんな敏腕たちが総じて惹かれているのが、ひとつのドラムセットでポリリズムを叩きだす、トニー・アレンが生み出したアフロビートのドラミングだった。ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』にも参加していたロバート・スパット・シーライトのプロジェクト=ゴーストノートや、クリスチャン・スコットが寵愛しているコーリー・フォンビルも籍を置くブッチャー・ブラウンなど、優れたドラマーがいるバンドがアフロビートを採用する理由もそこにある。そもそもトニー・アレン自体、ジャズの影響を強く受けたドラマーなので、今日のジャズ・ドラマーたちが参照するのも理にかなっているのかもしれない。

『Highlife-Jazz And Afro Soul (1963-1969) 』という、フェラがアフロビートを生み出す前の音源を集めた初期音源集があるのだが、これを聴くとフェラやトニー・アレンが行ってきた試行錯誤がわかる。ここではラテンやカリプソっぽいサウンドからはじまり、ハードバップやラテンジャズ、それにハイライフやソウル/ファンクを経由して、アフロビートのプロトタイプとなる音源までが収められている。ジェームス・ブラウンが生んだファンクに影響されたフェラは、エレキベースを導入してファンクっぽいサウンドに挑んだ「I Know Your Feeling」をはじめ、リズムだけでなくメロディや歌唱なども含め、物真似やコピーに近い、ある意味でかなり拙いところから出発した。そこから最終的にファンクを物にして、あの独自のサウンドを生み出したことが、ここでの音源を聴くと実によくわかる。



同作に収録されたソニー・ロリンズの「St Thomas」的なカリプソ・ジャズ「Great Kids」、モード期のマイルス・デイヴィスっぽいメロディをハードバップっぽく仕上げた「Amaechi’s Blues」などにも明らかなように、ハードバップ期のジャズもまた、フェラとトニー・アレンにとっての大きなルーツだった。それをはっきりと示したのが、トニーが2017年にブルーノートと契約してリリースした『A Tribute To Art Blakey And The Jazz Messengers』である。ここでトニーは、最大の影響源だと認めるアート・ブレイキー由来の名曲を、アフロビートも取り入れたアレンジでカバー。そして、同年の次作『The Source』では自身のジャズドラマー性を存分に発揮していた。


トニー・アレン『The Source』の収録曲「Wolf Eats Wolf」

ちなみにアート・ブレイキーは、ラテン〜アフリカ音楽への関心を持ち続けていたドラマーで、アフリカ三部作と呼ばれる『Orgy In Rhythm』『Holiday For Skins』『The African Beat』や、サブーなどのキューバ人パーカッショニストと組んだ『Cu-Bop』『Drum Suite』などの作品を50年代中盤〜60年代初頭に残している。ブレイキーのそういった取り組みは、『Highlife-Jazz And Afro Soul』でトニーが試したものといくつも重なっている。

つまり、アートからの影響を消化し、アフロビートという全く別の形でスタイルを確立したアフリカンドラマーのハイブリッドなドラミングが、今度はアメリカのジャズに還元される形でシーンを刺激しているのだ。そして、クリス・デイヴやネイト・スミスはその刺激的なリズムでもって、ディアンジェロやグラスパーなどと一緒に、再びネオソウルをアップデートさせている。アフロビートやネオソウルをめぐる関係性は、複雑に交差しながら今も進化を続けているわけだ。それと並行してトニー・アレンもまた、モーリッツ・フォン・オズワルドやジェフ・ミルズ、カール・クレイグといった電子音楽/クラブミュージックの大物たちとコラボしながら、今も最前線に立ち続けていることも付け加えておこう。

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