ピンク・フロイドのニック・メイスンが語る、75歳でソロ活動を始めた理由

長い間、メイスンのソロ・プロジェクトは、それが何であれ、実現が非常に困難だと思われてきた。しかし1年ほど前に元ザ・ブロックヘッズのギタリストのリー・ハリスとベーシストのガイ・プラットがメイスンにアプローチしてきたのである。この二人は1987年にロジャー・ウォーターズの後釜としてピンク・フロイドに加入し、それ以来デヴィッド・ギルモアの主要コラボレーターでもある。彼らが話したアイデアは素晴らしくシンプルなものだった。それは、ピンク・フロイドが『狂気』でメインストリームに登場する前に作っていた、初期のシュールでサイケデリックな音楽に特化した新バンドを組むというものだ。「無礼に思われたくないのだが、本当の意味でデヴィッド・ギルモアがギターを弾けるようになるずっと前からニックは経験豊富なドラマーとしてやっていたのに、ギルモアが最高のソロを披露する後ろでニックはリズムのキープに専念させられていたんだよ。だからピンク・フロイドの初期の音楽に立ち返りたいと思ったんだ」と、ハリスが言う。

メイスンは慎重になりつつも、このアイデアを前向きに捉えた。ハリスとプラットがキーボーディストのドム・ベケンとスパンダー・バレエのギタリスト兼ソングライターのゲイリー・ケンプをリクルートしてきたあとは、もっと前向きになった。ちなみにベケンは90年代にオーブというエレクトリック・グループで活躍していた。こうして、全く異なるバックグラウンドを持った5人の男が集まった。しかし、彼らには、カリスマ性のある有名バンドリーダーの影で演奏してきたという共通点がある。確かにケンプはスパンダー・バレエ時代到来のきっかけとなった大ヒット曲「トゥルー」を始め、彼らの楽曲をほぼ全曲作っているのだが、80年代に一番の人気を博したのはリードシンガーのトニー・ハドリーだった。一方、リー・ハリスは、パブロックのアイコンだったイアン・デューリーが2000年に他界したあと、ブラックヘッズに空いた大きな穴を埋めようと何年も頑張った。また、ガイ・プラットはピンク・フロイドやギルモアのソロ・コンサートでロジャー・ウォーターズのベースとヴォーカル・パートを何年も再現しているにもかかわらず、ピンク・フロイドの熱狂的なファンのみが知る地味なメンバーだ。

ロンドンにあるリハーサル・スペースに全員が集まって、長い間シーンから遠ざかっていたロックの重鎮の復活を試みたとき、5人の間に瞬時にケミストリーが生まれたのである。「ハードワークは好まない性格だから、ちょっとやってみようという雰囲気でなかったら状況は違っていたと思う。驚いたのは、音を出した瞬間にいい感触だったことだ。思うに、彼らの情熱がそうさせたに違いないよ」とメイスン。

Translated by Miki Nakayama

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