岡本:RCがバンド編成でブレイクしてから、活動休止するまでの作品、ライブについて振り返って総括すると、どんなことが言えると思いますか。
高橋:レコードは、『PLEASE』の頃からトータルの作品性を追求しているように思います。以降の作品はあんまりライブにはそぐわない作りになっており、それは、ライブとレコーディングを切り離していたという表れだと思います。主にレコーディングの方にクリエイティビティを割いていて、ライブはコミュニティみたいな感じで。レコーディングは相当高い位置で考えていたと思います。
岡本:忌野清志郎がレコーディング作品に於いて今の時代に残したものって、どんなものでしょう。
高橋:ライブは消えものですが、レコーディングは100年先にも200年先にも残る作品になる。ライブ盤や映像もありますが、それはあくまでも記録で、作品ではない。それをよくわかっているからこそ、レコードとライブでそれぞれ最高のパフォーマンスができたのだと思います。RCも清志郎さんもライブにはいろんなエッセンスや音が入っていて、とても豪華で、たった数時間のショーを永遠に記録していくことに集中している、正にライブの魅力をストレートに体現していました。レコーディング作品はいつ聴いてもそこに音楽が立ち上がり、若い子たちには新しい音楽として新鮮に響く。たとえ50年前の作品でも、新しくプレゼンテーションすることにより、新譜になる。だから、清志郎さんのレコーディングのほとんどの作品には、ライブとは真逆のメカニズム、つまり、必要な音しか入っていない。流行や世代、時代性に左右されることなく、いまも1年後も10年後も30年後もそのあともずっと聴き継がれていく作品として作っている。
一方、ライブはすぐに過去になるから思い出になる。レコーディング作品は再生された瞬間に今になり、新しく更新されていく。岡本さんの本でも話しましたが、僕は清志郎さんの全ての活動をレコーディング・アーティストとしてとらえているので、ライブよりレコーディング作品のほうが好きです。また清志郎さんのレコーディング作品には裏テーマとして、一粒のマニアックが入っています。それがジミー・ペイジならロイ・ハーパーにチェット・アトキンス、ジャンゴ・ラインハルトだったように、清志郎さんはオーティス・レディング、サム&デイブ、またはウィルソン・ピケット、つまりサザン・ソウルになる。忌野清志郎の音楽の特徴はレコーディング作品の中に顕著に表れていると思います。
岡本:本当そうですよね。サム・クック、エディ・フロイドなんかもそうだと思います。
高橋:それらのアーティストは、一部のマニアだけのものでした。白人のシンガーだと思って、レコード屋に買いに行ったら、『ヨーロッパのオーティス・レディング』のジャケットを見て、黒人シンガーだったことを知って驚いたぐらい。当時はそんな音楽を聴いたことがなかったですからね。知ってるのはせいぜいJBとかスティービー・ワンダーぐらいで。それで聴いてみたら、白人のロックとはサウンド構成が全然違うので、正直アジャストするまでに相当時間がかかりました。90年以降にアシッド・ジャズが流行し、→ブッカー・T&ザ・MG’sの「GREEN ONIONS」をネタにしたDJやトラックメーカーとかが出てきて、やっとロック・リスナーに少しづつフィットするようになってきました。はじめて聴いてから20年ぐらい経って、だんだんわかってきた。ソウル・ミュージックを日本のリスナーに紹介したことは、清志郎さんのひとつの功績で、それはレコーディング作品において強烈なセンスになり、“オルタナティブな創作意欲”に溢れていたと思います。
岡本:“オルタナティブな創作意欲”ですか。
高橋:『RHAPSODY』を作ったら、普通は次の作品も同一のラインでいくと思うんですけど、思いっきりポップな作品にして(『PLEASE』)。その次は練習スタジオに録音機材を入れてレコーディングするなんて、当時は考えられない(『BLUE』)。『BEAT POPS』ではシンセを思いっきり入れていたり、オーケストレーションを入れたり、『OK』でハワイにレコーディングに行ったら南国サウンドになっていて。『FEEL SO BAD』の「不思議」ではダブをいち早く取り入れていたり。ダブをやったのはすごく早かったし、画期的だったと思います。その後もどんどんレコーディング作品は変わっていきましたし、常にチャレンジ精神を持って作品作りをしていたと思います。ストーンズから影響を受けて、そこに色んなマニアックな要素を入れて表現してきたのが、清志郎さんの音楽だと思います。だから僕にはブルースやソウル、またはディランやニール・ヤングと言われてもピンとこなくて、やはりストーンズが一番ピタッときます。あえてもうひとりなら迷わずにジョン・レノンですね!
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<書籍情報>
『I LIKE YOU 忌野清志郎』
Rolling Stone Japan 編集部