ゾンビ映画を作ったジム・ジャームッシュ、禁煙成功は『大菩薩峠』のおかげだと語る

10日間ロフトにこもって、1日3回『大菩薩峠』を見た

—トム・ウェイツには世捨て人の預言者を、ティルダ・スウィントンには刀を持った葬儀屋を演じてもらっています。

(笑)トムと一緒にいるためなら、どんな言い訳だって素晴らしいものになる。彼と俺は電話でよく話すんだけど、トムは西海岸にいるから、あまり頻繁には会えなかった。80年代、彼がニューヨークに住んでいた頃は本当に楽しかった。だからもっと、彼にたくさん会いたかった。

ティルダには、俺が数年前から持っていた、ざっくりとしたアイデアを伝えて、彼女にこう聞いたんだ。小さくて変な町で、演じて見たいキャラクターっている?とね。そうしたら彼女は、「私、葬儀屋を演じてみたいわね!」と即答した。俺は二つ返事で、「OK、スウィントン、君に決定!」と伝えたよ。

—刀も彼女のアイデアだったんですか?

いや、あれは俺がマーシャル・アーツや、それに関わる映画が好きだったからなんだ。そして数年前、俺が禁煙した出来事からも着想を得た。すごく大好きな日本の映画があるんだ。60年代の映画で『大菩薩峠』っていうんだけど……。

—確か仲代達矢が主演で、残忍な侍を演じる映画ですよね。

そう。彼のキャラクターはサイコパスでイカれた侍で、ムカついたからという理由で、簡単に人を殺すんだ。俺が歩こうとした道にいるお前らが悪いんだ、全員消え失せろ!ってね。(刀で人を斬るジェスチャーをしながら語る)最終的に、彼はそういう輩全員と戦って、敵が主人公の手足を切ってしまうんだけど、それでも憎悪に満ち溢れていた主人公は戦い続ける。ものすごく怒りに満ちた、ニヒリスティックな映画なんだよ! それで俺が禁煙をしようと思ったときに、この主人公と似た類の怒りに満ちたんだ。もう35年も煙草を吸っていたから、やめるのはめちゃくちゃ大変だった! そこで何をしたかと言うと、10日間ロフトにこもって、1日3回『大菩薩峠』を見たんだ。

—本当ですか?

禁煙によって生じる怒りを感じた時、DVDを入れて、初めから終わりまでただ見ていた。自分の中に怒りが込み上げるのを感じ、このイカれた、ヒネくれた侍が恐ろしいことをするのを見て、自分自身を浄化した。ものすごく役に立ったよ。それが俺の治療法だったんだ。もし君が家にいて禁煙しようと思ったら、この方法をオススメするね(笑)。

—『ザ・デッド・ドント・ダイ』は、怒りに満ち溢れたコメディです。『大菩薩峠』ほどではありませんが、荒涼としていて、独特の方法で憤怒を表していますね。

そうだね、怒りに満ちた映画だと思う。俺はゾンビに飽き飽きしていたんだよ。まるで、本物のゾンビが俺たちの周りを歩いていて、何にも興味を持たず、世界を終わらせようとしているようにね。実は『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』に、何気無いこんなワンシーンがあるんだ。カップルが ゾンビのような人間について話している。なぜなら彼らは、自分の周りにあるものに対して意識を向けていないからだ。そして世界の大部分が、その差し迫った終わりに対して、いかに無意識であるか、を語っている。それは悲しいことだし、イライラするよ。俺は、そんなのはもうウンザリなんだ。だからこの映画では、俺ならではの手段で怒りを表明しているとも言えるね。

Translated by Leyna Shibuya

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