ゾンビ映画を作ったジム・ジャームッシュ、禁煙成功は『大菩薩峠』のおかげだと語る

ゾンビよりヴァンパイアの方が好き

—そうですか……。

でも、古い映画のテーマとしては好きだよ。『恐怖城 ホワイト・ゾンビ』とか、『私はゾンビと歩いた!』とかね。これらはハイチのブードゥー教のゾンビの話で、自分の命令を聞いてくれる。彼らをコントロールすることもできる。当時の映画では、こういった物語の手法が多かった。

でも俺にとって、ポスト・モダンなゾンビ映画界で偉大だと思うのは、ジョージ・A・ロメロ監督。彼は本物だ。俺の映画には、ロメロ監督のオマージュがたくさん見られるよ(笑)! 彼が遺したものは本当に素晴らしいよね。

—彼が遺したもの、とは?

それまであったコンセプトを、すべて覆したこと。ゾンビをコントロールすることって、できないよね。彼らは指示を受けない。一般的なモンスターであって——ヴァンパイアとか、フランケンシュタインとか、ゴジラとか、色々あるけど——社会の枠組みからは外れている。むしろ社会に対しては危なくて、恐怖を与えてくる存在なんだ。でもロメロ監督は、ゾンビを社会の枠組みから生み出した。彼らを、社会のシステムの何らかの失敗の象徴とした。社会の枠組みがうまくいかなかった結果が、ゾンビになった。彼らは人間の内部から出て来て、人間を食べるんだ。

—あなたもロメロ監督の消費主義的な要素を取り入れてますよね。例えば「コーヒー」や「Wi-Fi」のように、ゾンビたちが生前愛したものを、常に求めるようになったり……。

(笑)そうなんだよ、そのアイデアは『ドーン・オブ・ザ・デッド』から拝借した。その中で、ロメロ監督のやったことが大好きなんだ。彼らは馴染みのある場所に住んで、生きていた頃に欲していたものを欲するけど、魂がない。彼らはもう自分の中に何もないけど、自分が生きていた頃に持っていたものを単細胞が求める。その部分に共感したんだ。

俺たちの作品の中でも、ゾンビはかつて着ていた洋服を着ている。アイデンティティーはどこかに行ってしまったけど、その痕跡として。(少し考えて)痕跡という言葉は、ロメロ監督が彼らをどのように描いたかということに対して、良い言葉かもね。

—ゾンビ映画がお好きなように聞こえますが?

俺はゾンビが嫌いなだけだと思う。俺はゾンビのファンじゃないんだ。ヴァンパイアの方がよっぽど好きだよ。彼らは複雑な生き物だし、セクシーだし、頭も良い。生きるために、大変なことを色々とやらないといけないしね。彼らは姿形も変えられるし— —今はコウモリだとしても、狼にもなれるしね! あいつらはカッコいい。ゾンビのカッコいい部分って何だ? 奴らは命のない何かで、魂のない人間だ。貧弱な存在だと思うよ。


『ザ・デッド・ドント・ダイ』に出演するイギー・ポップ(©︎Focus Features)

Translated by Leyna Shibuya

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