セックスカルト集団の指導者、すべての起訴内容で有罪に

弁護側の証人は1人もいなかった

今回の裁判で、弁護側の証人は1人もいなかった。公聴席の間では、『ヤング・スーパーマン』の出演者でDOSの首謀者と見られていたアリソン・マックが証言台に立つのでは、という憶測がまことしやかに飛び交っていたが、結局彼女は現れなかった(マックは4月に、恐喝および恐喝共謀罪で有罪を認めている。量刑判決は9月に行われる予定)。

だが陪審員は、ラニエール被告がダニエラの妹で当時15歳だったカミーラと性交した証拠を目にした(被告はダニエラのもう一人の妹マリアナともセックスし、彼女を妊娠させたとみられいる。ダニエラの証言によれば、ラニエール被告は妹2人に3Pを持ちかけたが、妹たちから涙ながらに反対されたという)。

なかでもとくに痛ましいかったのは、陪審員にカミーラのヌード写真が提示された時だ。彼女が15歳の時に撮影したとみられる写真は、ラニエール被告のパソコンのハードディスクから発見されたもので、「研究」というフォルダに保存されていた。フォルダにはネクセウムの女性メンバーの写真が何百枚も保存されており、すべて性器がはっきり見えるようなポーズで撮影されていた。

証言から浮かび上がってきたのは、女性に最大限の権力を行使して、食事からセックスの相手、陰毛の手入れまで細かく指示した支配欲の強い偏執的な男の姿だった。また、ラニエール被告を神のような存在に奉り上げ、テクノロジーや気候までコントロールすることができる「現存する中で最も頭脳明晰な男」だとメンバーに吹聴していたネクセウムという組織の実態も浮き彫りになった。

ネクセウムの元メンバーの証言から、ラニエール被告は権力を欲しいままにしていた背景には、アリソン・マックやクレア・ブロンフマン、ザルツマンといった側近らが外部の批判から彼を守ったり、警察の目を逸らせたりしていたことが伺えた(マック、ブロンフマン、ザルツマンは全員有罪を認めているため、ラニエール被告と並んで裁判に立つことはなかった。ザルツマンは法廷での証言を条件に、検察側と司法取引を結んだ)。

17日と18日の朝、公聴席に詰めかけた大勢の人々を前に、アニフィロ弁護士はラニエール被告の行動に対する連邦政府の主張にあえて反論しなかった。とくにDOSに関しては、おそらく陪審は被告の行動を「不快」で、被告のライフスタイルを「悪趣味」だとみなすだろうと述べた。だが、被告に対してかけられた容疑はどれも犯罪行為には当てはまらないと反論。公判中ずっと主張してきたように、DOSの活動が本人たちの同意の下ではなかったことを示す証拠は何ひとつない、と主張した。

「人々に受け入れられないからといって、犯罪だとは限りません。不快だからといって犯罪にはなりません」と彼は述べ、陪審にすべての起訴内容で無罪放免とするよう訴えた。

だがマーク・レスコ連邦検事補は、原告側の反駁(はんばく)ですぐさまこの主張を論破した。「被告は(虐待加害者の)常套手段をほぼすべて用いています」と検事補。「洗脳、強要、マインドコントロールなど、すべてにおいて度を越しています」

法廷の外で取材に応じたアニフィロ弁護士はこう述べた。「難しい裁判になることはわかっていました。今後は控訴する構えです。キースは無実を主張しています。今日は彼にとって非常に残念な1日です」

「皆さんにとって有罪評決が、せめてもの慰めになれば幸いです」とも付け加えた。

毎日公判に通い詰めていたブーシェイ氏も、やはり感極まっていた。彼女は数分遅れで陪審評決を耳にした。「とてもホッとしています」と彼女は涙を流しながら、評決について報道陣に語った。「本当によかった」

だがラニエール被告の元恋人トニ・ナタリーはもっと辛辣だった。「刑務所にポストイットを送ってやればいいわ」と彼女は涙と笑顔を交互に浮かべながら報道陣に語った。ラニエール被告が公判中、ポストイットにしきりにメモを取っていたことに対する当てつけだ。

ラニエール被告の量刑判決は9月25日に言い渡される予定。


トニ・ナタリー(Photo by EJ Dickson)



Translated by Akiko Kato

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