みのミュージックを構成する「ロック」とは? 動画クリエイターとしての源流を探る

「ここ1、2年で改めてスペクターに思いっきりハマり、ずっと彼のことを考えていて」

─サウンドといえば、50年代にウォール・オブ・サウンドを発明したプロデューサー、フィル・スペクターもリストに挙がっていました。

みの:そもそもスペクターへの入口は、ベタですが、ブライアン・ウィルソンで。『ペット・サウンズ』は、ブライアン本人とアル・ジャーディンのサインが入ったジャケットを自室の一番目立つところに飾っています(笑)。でも、いざとなるとスペクターについて語るのは難しいですね(笑)。

彼のキャリアはロネッツなどのガールグループをプロデュースしていたキラキラでイケイケな時代から、ライチャス・ブラザーズなどを手がけていた少々パラノイアな局面が顔を覗かせていた時期がピークだと思うんですけど、その後どんどんメンタルが崩壊していきながらのアイク&ティナ・ターナー作品(『River Deep – Mountain High』1966年)や、ビートルズのソロ作、ラモーンズに至るまで、彼のキャリアに関しては全ての時代が好きですね。

─網羅的に追い続けているんですね。

みの:実はここ1、2年で改めてスペクターに思いっきりハマり、ずっと彼のことを考えていて(笑)。あの人、クリエーターの矜持ということでいえば、メチャクチャ打算的でもあるじゃないですか。彼の関連書籍も何冊か読んだのですが、とにかく出世や金のことばかり考えているんです。

ただし、仕事のクオリティは圧倒的だったわけで。その両極端な……ある意味では分裂した人格だったからこそ生まれた作品もあっただろうし、それを10代の子どもたちが純粋な気持ちで聴くという構造そのものが狂ってますよね。

─確かに(笑)。それにしてもスペクターは、あの革新的なウォール・オブ・サウンドを、どこまで狙って作っていたんですかね。単に「デカイ音がほしい」と思ってドラムやギターを大勢呼んで、大編成でレコーディングしたら偶然あのサウンドになったのか。それとも最初から「壁のようなサウンドにしよう」という強靭な意思のもと敢行したのか。

みの:そこ、気になりますよね。当時はまだ「エンジニアリングで不思議な加工をしたら、かっこいい音像が出来る」という発想が、そもそもない時代じゃないですか。どこまで自覚的にやっていたのかは是非知りたいです。

ちなみに、カムバックしてからのスペクター・ワークスでは、ジョージ・ハリスンのソロ作『All Things Must Pass』(1971年)とラモーンズの『End Of The Century』(1980年)が好きです。ジョン・レノンのソロ(『Imagine』1971年、『Some Time in New York City 』1972年、『Rock ’n’ Roll』1975年)は、もうちょっとスペクター色を出しても良かったんじゃないかな(笑)。ちょっとジョンに遠慮し過ぎな気がします。

「クラシックな作品を、心の底からミーハーに楽しめるんです」

─映画ではスタンリー・キューブリック作品全般を挙げていましたね。

みの:これは僕の特技なんですが、クラシックな作品を、心の底からミーハーに楽しめるんですよ。キューブリック作品もまさにそれ。中学生の頃にレンタルビデオ店で『2001年宇宙の旅』(1968年)や『時計じかけのオレンジ』(1971年)を借りてきて、ちゃんと初回から感動できるんです(笑)。

たとえば『時計じかけのオレンジ』には、ミュージカルナンバー「雨に唄えば」がBGMになっている有名なシーンがあるじゃないですか。ああいうのを多感な時期に、浴びるように観ていたわけです(笑)。

・New trailer for Stanley Kubrick’s A Clockwork Orange - back in cinemas from 5 April | BFI



─多感な時期に(笑)。

みの:それでも素直に感動できていて(笑)。それと、キューブリック作品は絵画的な映像も大好きです。どの場面を切り取っても、そのまま額縁に入れて飾れるくらいの完成度というか。ストーリーのみならず、映画というアートフォームでどれだけ優れているか?というところで、やはりキューブリックは最高峰。……って、当たり前なことを言ってますね(笑)。

─ミロス・フォアマン監督によるオスカー作品『アマデウス』(1984年)も挙げていましたが、どんなところが好きですか?

みの:映画のテーマである「天才モーツァルトと凡才サリエリの愛憎」の部分は、クリエイターとして興味深く思いますし、何より舞台装置や衣装などディティールへのこだわりがすごい。あの時代の空気を、あれだけ緻密に再現しているのは見事だなと思います。ライティングもそう。当時の暖かい光の感じとか、普通にやるとどうしても安っぽくなりがちじゃないですか。

・AMADEUS (1984) | Full Movie Trailer in HD | 1080p



─この映画で描かれるモーツァルトとサリエリの関係は、「クリエイター同士のせめぎ合い」という意味では先ほどのジョンとポールの関係にも通じるものがありますよね。みのさん自身も、そういう話に惹かれる傾向があるのでしょうか。

みの:確かに、それは間違いなくありますね。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE