みのミュージックを構成する「ロック」とは? 動画クリエイターとしての源流を探る

「その時の気分次第でジョンに恋したり、ポールに夢中になったり」

─そういうサブカルチャーの情報は、どうやって仕入れていたのですか?

みの:自分が面白いと思うものを突き詰めていたら、いつの間にか袋小路にハマっていたという感じです。あとは図書館へ行って、そこにある音楽関連の書籍を片っ端から読み漁るくらいかな。当時はまだインターネットもそんなに普及していなかったし。それが全てでしたね。

BBCの「音楽史を紐解く」みたいなVHS10巻セットも、当時死ぬほど観ました。歴史の縦軸、横軸みたいなことを考えるのが、すごく好きなんです。「この時代、社会的に何が起きて、文化ではどんな動きがあったのか?」みたいな、文化と社会の相互作用などを調べたりして。

─現在、『みのミュージック』でロックの歴史講座などをやっているのも、そういうジャーナリスティックな視点や探究心があるからこそだと思います。今日は、事前に作成していただいた「好きなものリスト」をから、いろいろ伺っていきたいのですが、まずはなんと言っても「ビートルズ」。ビートルズに関しては、今どんな切り口で楽しんでいますか?

みの:その時の気分次第でジョンに恋したり、ポールに夢中になったり色々あるんですけど(笑)、今は、ふたりの競争関係に興味があります。コード進行をひとつ取ってみても、そこにはお互いの明確な競争意識があるんですよ。たとえば『Help』のレコーディングでは、ポールが「Another Girl」という3度の転調を用いた曲を書くんですけど、その少しあとにジョンが「You’re Going to Lose That Girl」という楽曲を書き、そこで同じことをやるわけです。

あとは、「Paperback Writer」と「Rain」が収録された12枚目のシングル(1966年リリース)。それぞれポールとジョンが書いたこのふたつの楽曲のコード進行は、どちらもGとCの繰り返しなんです。もう明らかに競っているわけですよね。

・Another Girl (Remastered 2009)




・You’re Going To Lose That Girl (Remastered 2009)



─よく、「ジョンが前衛的で、ポールは大衆的」などと言われますが、実は「Revolution 9」(ジョンとヨーコ・オノが作曲し“ポップ・ミュージック史上初のミュージック・コンクレート”と言われた『The Beatles』収録曲)よりも前に、ポールが「Carnival of Light」(ビートルズの未発表曲)という13分にも及ぶアヴァンギャルドナンバーを作り上げるなど、あらゆる面で競い合っているんですよね。

みの:そうなんです。前衛的といえば、確かポールだけ当時ロンドンに住んでいたんですよね。ほかの3人は彼女や奥さんと、ちょっと郊外に家を構えて暮らしていたのとは対照的。よりアンダーグラウンドシーンに近いところにいたかったのでしょうね。

「ビートルズにはない良さを、ブルースの中に気づいた」

─中学生でビートルズにハマり、いっときはビートルズしか聴かなかったみのさんが、ほかの音楽へ興味を持つようになっていったのはどんな経緯だったのですか?

みの:ブルースに目覚めたのが大きかったですね。友人が聴かせてくれた、ジョン・メイオールとエリック・クラプトンが一緒にやっているアルバム『Blues Breakers with Eric Clapton』(1966年)を聴いて、「クラプトンかっこいいな!」って。ビートルズにはない良さを、ブルースの中に気づいた時点で「ビートルズ至上主義」みたいなところから脱却できた感はありました。

─それは、ギタリストとしてのみのさんを刺激したんでしょうか。

みの:おそらくそうですね。ギタリストとしての耳で音楽を聴く時って、楽曲としての完成度は一旦隅に置いておけるというか。たとえばジェフ・ベックの80年代の作品って、音楽としての完成度としてはほかの時代に比べると「ちょっと……」ってところあるじゃないですか。これ、あくまでも僕の主観ですよ?(笑)

ただ、「この曲の、このギターフレーズはかっこいい」とか「この曲のソロは最高」みたいな、演奏者としてはピンポイントでの聴き方も可能なんですよね。『Blues Breakers with Eric Clapton』はまず、そのギターサウンドにビビっときたんです。「ギターからこんな音が出せるんだ!」って。



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