ジャック・ホワイト率いるザ・ラカンターズ、ロックの衝動に導かれたカムバックを語る

─新作は1stアルバム『ブロークン・ボーイ・ソルジャーズ』の頃の衝動が戻ってきたと言うか、ひょっとしたら1stアルバムよりもロック的な衝動が感じられるのですが、どんな作品を作ろうと取り組んだんですか?

ジャック:全体で目指したものは特になかった。曲ごとに、どんなことができるか、サウンドを追求していったんだ。自分としては、どんなプロジェクトだろうと、曲ごとに全力で取り組んで、音楽に導かれるままに形にするやり方が好きなんだ。今回も25曲か30曲くらい、そうやって作った中から全員がいいと思う曲や、“これは仕上げなきゃ”って訴えかけてくる力のある曲が最終的にアルバムに入った。

ブレンダン:僕も1stアルバムに通じるものがあると思ったよ。サウンドも、レコーディング方法もね。まるで『コンソーラーズ・オブ・ザ・ロンリー』が、自分たちとかけ離れたことをしてしまったんじゃないか。ひょっとしたら、ラカンターズのアルバムの作り方としては正しくなかったのかもしれないんじゃないかと思えるくらいだった。もちろん、『コンソーラーズ・オブ・ザ・ロンリー』は大好きだし、誇りに思っている。でも、今回のアルバムは1stアルバムに通じる何かを感じたと言うか、なるほど、こういうことか!って思えたんだ。1stアルバムと同じで、ものすごく早いペースで作って、自分達が何を作ったかちゃんと把握する間もなかったくらいだったんだ。

ジャック・ローレンス:これまでで一番、激しい曲が入っているしね。

─今回のアルバムはいつ頃作り始めたんですか?

ジャック:僕がまだ『ボーディング・ハウス・リーチ』のツアーをやっている時に最初のセッションをやったんだ。

ジャック・ローレンス:去年の7月だったと思う。

ブレンダン:それからあっという間だったね。

ジャック:そう。2日くらいだった。

パトリック:レコーディングも早かったね。ほとんどの曲を、2日くらいで録ったんだ。

─曲ごとに、どんなことができるか追求していったそうですが、今回のアルバムの中で、それぞれに気に入っている曲を教えてください。

ブレンダン:僕が一番気に入っているのは、「Help Me Stranger」。すごくユニークなサウンドの曲だからね。

─ファンキーでラテンっぽいところもあるという。

ブレンダン:ラカンターズの曲の中でも異質だし、一般的に見ても独特な世界感がある。それにメンバーそれぞれの良さが出ていると思うんだ。ジャックと僕はアコースティック・ギターを弾きまくって、ハーモニーを重ね、JLとパトリックは素晴らしいリズムを刻んでいる。しかも、この曲のベースラインを、JLはベース・ペダルを手で演奏しながら奏でているし(「Help Me Stranger」のMVを参照)、パトリックはスネアを逆さにして、抜群の演奏をしている。ラカンターズをやってきて最高の瞬間だと思う。



パトリック:僕は「Bored and Razed」だな。この曲には、いろいろな要素が入っているんだ。最初はジャズっぽい、崩したバンド・ジャム風に始まるんだけど、そこからザ・フーを彷彿させるアンセム調のイントロになる。そして、最後にはヒルビリーっぽくもなる。壮大な展開だ。パンクで、ヘヴィで、とにかく盛り上がる曲だと思う。メロディも最高だしね。



ジャック・ローレンス:僕は「Thoughts and Prayers」。アコースティック・ギター主体のロックンロール色が薄いところが他の曲とは違うアプローチのように感じるんだ。そして、この曲にはリリー・メイ(サード・マンからジャック・ホワイトのプロデュースでソロ・デビューした女性シンガー・ソングライター)がフィドルで参加しているんだけど、それは呆然としてしまうような、思わず鳥肌が立つ瞬間だった。個人的にはアルバムのハイライトだと思っているよ。

ジャック:僕はバラードの「Only Child」かな。理由は歌詞が一番気に入っていることともう1つ、音の組み合わせ方も気に入っているからなんだ。デモを聴きながら、生演奏で録り直そうとしたんだけど、うまく行かなくて、結局、ブレンダンが彼のスタジオで録ったものと、僕のスタジオで録ったみんなの演奏を組み合わせたんだ。そうやって曲の迫力を出そうとしたんだけど、結果、想像をはるかに超える10倍の迫力になった。ソングライティングからプロダクションまで、全ての面においてメンバー全員で力を合わせてできた曲だったんだ。

─ロック的な衝動が戻ってきたと思わせる一方で、いろいろな曲が入っている多彩なアルバムだということがわかる4曲ですね。

ジャック:そう言ってもらえてうれしいよ。僕たちはその可能性を持っているという点で幸せなバンドだと思う。それができるバンドはそう多くはない。自分たちが愛して止まないアルバムだってそうだ。ストゥージズのアルバムは大好きだけど、どの曲も曲調が同じだ。曲によって、ノリが違うとか、テンポが違うとか、歌っている人が違うとかっていうアルバムを作るのは難しいけど、それができたら最高だ。僕が一番好きなビートルズのアルバムは『ホワイト・アルバム』なんだけど、なぜ、そんなに好きかというと、それぞれの曲がまるで違うスタジオで録ったように聴こえるからなんだ。

─最後にアルバム・タイトルについて聞かせてください。『ヘルプ・アス・ストレンジャー』というタイトルの元になっている「Help Me Stranger」はラカンターズがリスナーに向けて歌っているように感じられるんですけど、ロック・ファンの中にラカンターズのことを知らない人っていないと思うんですよ。それにもかかわらず、“Help me strange”と歌っているところがおもしろい。

ジャック:『ブロークン・ボーイ・ソルジャーズ』も『コンソーラーズ・オブ・ザ・ロンリー』も、アルバムのタイトルは、収録曲のタイトルを複数形にしたものだったんだ。だから、今回も「Help Me Stranger」を複数形にしたわけだけど、曲のタイトルは、ブレンダンが書いた歌詞から取ったんだ。あの曲のサビを、みんなで書いているとき、ブレンダンが“Help me strange”ってフレーズを思いついたんだ。英語の表現で、しばらく会ってない親しい人に対して、“よぉ!ストレンジャー。久しぶりだな”と声をかけることがあるんだよ(strangerには「ずっと音沙汰がない人」という意味もある)。今でも自分のことを好きでいてくれてるかって確かめる気持ちも込めてね。

─ああ、そうなんだ。

ブレンダン:いろいろな解釈ができるフレーズだから、人によっていろいろな意味に取れると思うんだ。

パトリック:抽象的だよね。

ブレンダン:そこが気に入っているんだ。

ジャック:もっとも、俺達に助けは必要ないと思うけどね!(笑)

全員:ハハハハ! We Got This!(自分達でどうにかできるから大丈夫だ!)

ジャック:それが2つ目のアルバム・タイトルだ。




ザ・ラカンターズ 『ヘルプ・アス・ストレンジャー』

ザ・ラカンターズ
『ヘルプ・アス・ストレンジャー』
発売日:2019年6月21日(金)
品番:OTCD-6764
価格:¥2,400+税
レーベル:ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ
世界同時発売、付帯物等、未定

=収録曲=
01. Bored and Razed
02. Help Me Stranger
03. Only Child
04. Don’t Bother Me
05. Shine The Light On Me
06. Somedays (I Don’t Feel Like Trying)
07. Hey Gyp (Dig The Slowness)
08. Sunday Driver
09. Now That You’re Gone
10. Live A Lie
11. What’s Yours Is Mine
12. Thoughts and Prayers

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