ーある一定の音量ということは、ヴォーカルが1人になっても3人になっても同じになるように。
渡邉 ただ、彼女たちとの仕事もけっこう長いので、このフレーズはだいたいこれくらいの音量で歌ってくるだろうなっていうのはなんとなく分かっています。でも、もちろんメンバーは機械じゃないし、生ものなので、フレーズによっても変わってきます。声を出しやすいところは大きく出してくるし、音程が低いところは小さくなる。
ー一番近くで彼女たちのヴォーカルを聴いている立場からアドバイスすることはあるんですか?
渡邉 歌唱という点ではディレクターの方やボイストレーナーの方がいるので僕はタッチしないんですけど、コンサートとして成立するように、「あそこはもうちょっと(声を)出してくれないとキツいよ」とか、「ここはちょっと粗いよ、汚く聞こえちゃうよ」っていうことはPAとして言いますね。特にユニゾン。全員ユニゾンっていうのは、それぞれが好き勝手に歌うとぐしゃっとなってしまうので、そこを整えるためのアドバイスはしますね。
ー生声にプラスして、コーラスのデータもあるわけですよね。どういう割合でデータを被せているんですか?
渡邉 楽曲にもよりますが、曲によってはエフェクトボイスが主になっているものもあるので、その場合は同じぐらいかちょっと少なめで。あくまでも楽曲の世界観を再現することを意識してますね。コンサートだから生歌を大きくエフェクトを小さくというふうにはしていません。
ーライブ感を重視するわけじゃないんですね。
渡邉 ライブ感は低音感とか別のところで出しているので、あくまでも楽曲は楽曲で、というイメージです。
ー低音感のポイントは具体的にどういうところにあるんですか?
渡邉 オケの邪魔をしない限り、なるべく出すようにしています。ただ、低音は出せば出すほど濁るので、うまく濁らない処理をして楽曲に混ぜていくっていう考え方で曲ごとにいじっています。キックとベースは曲ごとにシーンメモリー(保存)してあって、音色やオケのバランスはほとんどリハーサルで詰めてます。なので、会場でやっているのは低音の処理ですね。あとは、ホールで音を出したときにどの音がどう邪魔をするのか、どこまで低音を出しても大丈夫なのかを確認します。
ーそして、コンサート中に微調整をする。
渡邉 そうですね。生バンドと違って難しいのは、曲ごとに楽器が変わることなんです。たとえるなら、曲ごとにドラマーとベーシストが変わる感覚。それをいかにひとつのコンサートとして違和感なく整えるか。それが現場の難しさというか、面白さですね。
ー頭がおかしくなりそうですね。
渡邉 でも、そこを詰めれば、あとはヴォーカルに集中できるので。言い換えると、ヴォーカルに集中するためにオケを詰めておくって感じですね。そのために大阪さんからトラックをバラバラにもらって、個々に調整できるようにしています。
ートラックはいくつぐらいあるんですか?
渡邉 生ヴォーカル以外で17です。キックとスネアとその他のリズムトラック、ベースのLRと、コード系が2回線、コーラス系が2回線とかですね。
ーお客さんに違和感が生じないようにまとめながら、音源を再現しているだけでは物足りないところを突くと。
渡邉 そうですね。音量だったり低音感だったりっていうところでライブ感を出している感覚です。ライブはあくまでも非日常を味わいに来るところなので、それを提供するのがPAの仕事だと思ってます。
ーそのほか、モーニング娘。’19のPAをするにあたって意識していることはありますか?
渡邉 大事なのは、彼女たちが2時間歌って踊ってるのをリアルに届けることだと思ってます。だから歌に関しては相当シビアにやってます。この子たちは本当に生で歌ってるんだぞ!っていう(笑)。だから、どれだけクリアにリアルにダイレクトにお客さんの耳に歌のよさを届けるかっていうのは常に意識しています。
ーアイドルによっては、口パクまでいかなくても被せの割合が大きすぎて、生声があまり聞こえてこないことがありますよね。その辺りについてはどうお考えですか? 先ほど、楽曲の世界観を再現とおっしゃってましたが。
渡邉 そこはすごく難しいですね。生声だけじゃ成立しないところを、エフェクトやコーラス、ハモで埋めて聴かせるっていう感覚ですね。