米移民問題、まるで映画のような腐敗した国境警備隊員の内幕

事件で自分が深刻な状況になる可能性のあることに気づいたボーエンは、すぐさま言い分を変えた、と政府は主張している。検察は、事件から約1週間後にボーエンが同僚へ送ったテキストメッセージも引用している。「俺は、あれは故意でなく事故だったという追加の報告書を提出した。それから新型F-150のアクセルの反応に慣れていなかったとも書いた。」

被告弁護人は、ボーエンによるテキストメッセージの一部を、裁判の証拠から除外することができるかもしれない。ある判事は、今回罪に問われている被告の行為は「計画性がなく」、「衝動的な事件」だったとして、「非人ども」などの記載を含む事件以前に送信されたテキストメッセージについては、証拠から排除すべきだと勧告した。テキストメッセージを証拠に含めるかどうかの審理は、2019年7月初旬に行われる予定だ。

今後開かれる裁判以上に、国境警備隊のボーエンと同僚との間で交わされたテキストメッセージは、同組織内のカルチャーに対する疑問を提起している。あるメッセージでは、テイザー銃による電気ショックの威力を強めるためのオイルの使用が、同僚とボーエンとの間でジョークとしてやり取りされている。「普通のピーナツオイルを塗ってテイザー銃を当てたことはあるか? 肌がチリチリ焼けるんだ」という同僚からのメッセージに対し、ボーエンは「グアテマラ野郎は地元のオリーブオイルでカリカリに美味しくできあがるぜ」と答えている。

税関・国境警備局(国境警備隊の上部組織)の報道官からは、「tonk」の意味や、「guat」や「beaner」などの言葉遣いについての内部ポリシーがあるかどうかの質問に対して回答をもらえなかった。国境における虐待問題を告発した米国市民自由連合(ACLU)による2018年の報告書に対し、税関・国境警備局は「当組織に所属する男女スタッフは皆、プロとして自らの職務を果たしている。そして誰に対しても等しく尊厳と敬意をもって対応している」と反論した。ボーエンの代理人はインタヴューを拒否し、ボーエンが「tonk」という言葉が移民の頭を殴る音を意味すると理解しているかどうかなど、具体的な質問にも答えていない。

被告弁護人は批判を和らげる目的で、「tonk」という言葉を含む「人種差別主義的または攻撃的」と思われる可能性のある内容のテキストメッセージを、別の観点からグループ化している。さらにボーエンの弁護人は裁判所に対し、証拠として採用されるメッセージ中の「tonk」という語句を編集するよう求めた。弁護側は「“guat”や“tonk”などの言葉は“移民”と置き換え、それら言葉の使用から来る偏見を排除すべきだ」と主張している。弁護側の申し立てによれば、もしもそれらテキストメッセージが未編集のまま証拠として採用されるならば、「ボーエン氏は、それら言葉が国境警備隊のトゥーソン支部全体では日常的に使用されており、組織のカルチャーの一部である、と立証するだろう」という。

国境警備隊による暴力は、単なるレトリックではない。前出のテキサス大学エルパソ校のヘイマン教授は、2013年に実施した研究『Bordering on Criminal: The Routine Abuse of Migrants in the Removal System』(Immigration Policy Center)を共同執筆している。同研究では、調査対象の最近強制送還された1000人の移民の内11%が、米国当局による身体的虐待を経験していることが明らかになった。さらに虐待を訴えた人の3分の2(67%)は、国境警備隊からの被害者だった。同研究の著者は、国境警備隊が組織内に存在する一部の「腐ったリンゴ」による行動に苦労している、という考えを否定し「米国で拘留中の移民に対する虐待は、組織内で培われてきたカルチャーの問題だ」としている。

実際に「tonk」という言葉は、国境警備隊内の慣習と関係しているようだ。ProPublicaは最近、国境警備隊や税関・国境警備局による虐待を受けたとされる200人以上の移民の子どもを調査した。レポートでは、頭部に裂傷を負い3針縫ったある少年が、懐中電灯で頭を殴られたと主張している事例などを紹介している。同レポートによると「殴られ、テイザー銃を当てられ、食事や薬を与えられない子どもたちもいた。懐中電灯で殴られた例が特に多い」という。

Translated by Smokva Tokyo

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