ボブ・ディラン新ドキュメンタリー『ローリング・サンダー・レヴュー』関係者が語るその裏側

幸運にも、彼らは映像を収めた16ミリの「ワーク・プリント」をアーカイブの中から発見した。「ワーク・プリントっていう言葉がぴったりの代物です」その人物はそう語る。「映画の編集用に作るプリントで、映像素材のあちこちを切り取ってテープと一緒に吊るしておくんです。でもどれも使い古されていて、ノイズがひどかった。私たちは70年代のテイストがあってクールだと思っていたんですが、マーティ(・スコセッシ)は違う捉え方をしていて、モダンに見えるようにプリントを修復するよう指示しました」彼のチームはフィルムの隅々にまで目を通し、物理的な限界まで修復してみせた。「16ミリ特有の粗さとテクスチャーは残るので、さすがに近年に撮影されたものには見えないでしょう」その人物はそう語る。「それでも素晴らしい出来だと思います」



ディランのチームの誰一人として、そのワーク・プリントに何が収録されているのかを把握していなかった。ゴードン・ライトフットの自宅でディランとジョニ・ミッチェルが彼女の「コヨーテ」をデュエットするシーン、ホテルのダンスホールで行われたローリング・サンダー・レビューのリハーサルと麻雀のトーナメントに興じていた老女たちの困惑した表情、イースト・ヴィレッジのクラブで行われたパティ・スミスによるスポークン・ワード・パフォーマンスを見つめるディラン、そして「ハリケーン」「コーヒーもう一杯」「天国への扉」等のスリリングなライブ映像まで、そこに収められた映像の数々は彼らを大いに沸き立たせた。

ディランのチームは約10年前から、ジョーン・バエズやロジャー・マッギン、T・ボーン・バーネット、スカーレット・リヴェラ等、ツアーの主要メンバーたちへのインタビューを始めたが、結局スコセッシはそういった素材の大半を使用せず、バーネットとリヴェラの新録インタビューに至っては一切使われていない。「スカーレットに関しては、新たに撮影されたものよりも当時の映像の方が文脈的にフィットしたんです」情報源の人物はそう語る。「T・ボーンも素晴らしかったのですが、文脈に合わなかった。彼はそれを承知し、理解してくれています」

Translated by Masaaki Yoshida

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